「手を合わせる場」が必要 新地・釣師、大津波で119人犠牲に

 
父利雄さん、母キクイさんの名前が刻まれた碑に手を合わせる小野さん=新地町

 「いつ、どういう人が犠牲になったのか。孫の代に伝えるためにも碑は必要なんだ」。大津波で119人が犠牲となった新地町。遺族代表として町に慰霊碑建立を要望した漁師小野重美さん(73)は、碑に刻まれた亡き父利雄さん、母キクイさんの名を見ながらつぶやく。

 小野さんは東日本大震災直後、津波に備えて漁船を沖合に避難させる「船出し」に向かった。想定外の津波が迫るのを眼前にし、さらに船を沖に進め危機を乗り越えた。自宅にいた父と母と連絡がつかないことを知ったのは夜になってからだった。

 碑ができる前は、海に向かって線香や両親の好きだった飲み物を手向けた。「犠牲者が成仏するため、遺族が冥福を祈るために海辺で手を合わせる場が必要だった」。各地で慰霊碑建立が進む中、遺族から「碑に犠牲者の名前を入れてほしい」と署名が集まった。2019年10月、津波で大きな被害が出た同町釣師地区に、遺族の確認が取れた110人の名が刻まれた碑が建てられた。

 小野さんの両親は行方不明のまま。手掛かりだけでもとの思いは強い。漁協の地区代表としても奔走しながら「犠牲者のためにも一日も早く元の日々を取り戻したい」と海を見つめた。