東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から13年6カ月。福島ロボットテストフィールドでは実証実験が進み、産業復興の動きを後押ししている。
ドローン実験活発
福島ロボットテストフィールド(ロボテス)は陸、海、空のフィールドロボットの一大開発実証拠点として開所し、復興への貢献やロボットの社会実装を目指した取り組みが進んでいる。
ロボテスは2020年に開所した。新たな産業基盤の構築を目指す福島・国際研究産業都市(イノベーションコースト)構想の一翼を担う。現在はドローンやロボットの研究開発を行う大学やベンチャー企業など19団体が研究室を構える。ドローンの飛行試験や宇宙からの回収カプセル着水試験など、多種多様な実証実験が展開されている。
実証実験や会議室の利用など、施設の使用件数はドローン分野を中心に年々増加しており、昨年度は5115件と初めて5千件を超えた。牛丼を近くの牛丼店からロボテスにドローンで運ぶ実証など、ロボテス敷地外での高度な実証実験も進んでいる。
企業以外でも、消防や警察が災害対応訓練などで使用。子ども向けのプログラミング教室や学生の見学も行われており、先進技術を学ぶ機会を提供し、次世代の人材育成にも取り組む。
リピーターも増え、滑走路など施設の使用が順番待ちの時期もあるほどで、ロボテスの若井洋副所長は「活発に利用いただいている」と手応えを語る。ドローン分野を中心に今後、施設の利用需要が増えることも想定され、施設の空き状況を「見える化」するなどして対応しているという。25年4月には福島国際研究教育機構(エフレイ)との統合も予定され、若井副所長は「もう一段、高いレベルでの技術力が具備されていくだろう」とロボテスのさらなる発展に期待する。
人型ロボ実用化
ロボテスの開所から4年となり、実証を重ねてきた企業が成長し、事業をより大きく展開する動きも出てきている。
人型ロボット開発の人機一体は2021年、ロボテスから移転し、南相馬市内に新たな拠点を設けた。7月には鉄道分野で人型ロボットが実用化され、8月には二足歩行型の人型ロボットを公開した。ロボテスで実験を行ったAstrox(アストロエックス)も8月、小高区で県内で初めて本格的なロケットの打ち上げを成功させるなど、新たな産業集積が進んでいる。
空飛ぶ車、月探査環境再現へ
ロボテスでは、空飛ぶ車の飛行環境や月面を再現した設備の整備など、新たな取り組みも進んでいる。
空飛ぶ車の開発試験に向け、空飛ぶ車が飛行する高度の環境を再現した設備が本年度新たに完成する予定だ。富士山(3776メートル)並みの気圧と、マイナス50度以下の環境をつくることができる。
ロボテスによると、同様の設備は航空機メーカーなどにあるが、空飛ぶ車やドローンの開発を想定し、モーターの発熱でも、低温環境を維持できる設備は珍しいという。設備は、鉄筋コンクリートの連続稼働耐久試験棟内に整備される。棟内の試験スペースは、縦横約10メートルで、高さ5メートル。棟のそばには、発電機や冷却設備も配置する。
ロボテスでは、会津大が提唱する「月火星箱庭」の一環で、月面の環境を模した設備の整備も進んでいる。国内には例がない設備で、月面に近い物質を敷き詰めてクレーターなどを再現し、ローバー(宇宙探査車)の走行実験などを行う予定だ。
※写真=空飛ぶ車の飛行環境を再現した設備の入る耐久試験棟(福島ロボットテストフィールド提供)
来年4月、エフレイと統合
福島ロボットテストフィールドは2025年4月、福島国際研究教育機構(エフレイ)に統合される。研究開発に軸足を置くエフレイに同フィールドの実証機能が加わることで、基礎技術から産業化までを一貫して担う場になる見通しだ。エフレイは災害対応ロボットの研究開発拠点と位置付け、福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想のさらなる推進を目指す。
ロボットはエフレイの重点研究分野の一つ。同フィールドが持つ多彩な試験場を活用し、廃炉や災害の現場など過酷環境下で作業できるロボットやドローンを開発する。統合後は、エフレイが雇用する国内外の研究者らが活動し、新規の企業進出や官民連携も進むと期待されている。
県は同フィールドの整備主体として政府基本構想に沿って統合の検討を進め、6月にエフレイと基本合意を締結した。統合と同時に「県・エフレイ調整会議」を設置し、県も運営に関与を続ける。既存のネットワークを活用し、世界トップレベルの研究成果を広域に波及させる考えだ。
国はイノベ構想を発展させるため、県内に点在する既存の研究施設に横串を刺す「司令塔」機能をエフレイに持たせた。同フィールドに続き、日本原子力研究開発機構(JAEA)、国立環境研究所なども来年4月に統合される。