福島医大・石川徹夫教授に聞く 科学的情報の提供...意義大きい

 
いしかわ・てつお 横浜市出身。東大工学部卒。放射線医学総合研究所(現量子科学技術研究開発機構)を経て、2013年8月に福島医大医学部放射線物理化学講座教授として着任。現在は放射線医学県民健康管理センター基本調査・線量評価室長を兼務する。

 福島医大の石川徹夫教授(54)=線量評価=に、県民健康調査の「基本調査」の意義などについて聞いた。

 ―基本調査で分かったことを改めて聞きたい。
 「原発事故から4カ月の外部被ばく線量は、ほとんどの人が5ミリシーベルト未満であるという結果が得られた。今までの放射線影響に関する調査で一番信頼できるのが原爆被爆者の調査。長年追跡調査した結果、100ミリシーベルト以下では明らかな影響は確認されていない。これに基づくと、原発事故後の県民の被ばく線量は、統計的に健康影響がみられるようなレベルではないと分かったことが成果だ」

 ―200万人を超える対象者を想定して実施した調査が過去に行われたことはあるのか。
 「世界的にみてもないと思われる。回答率は27.7%だが、それでも56万人以上の人から回答が得られており、貴重なデータだ。国際機関でも原発事故の被ばく推計は行われているが、(一定のモデルに基づく)安全側に立ったものだ。県民健康調査は、県民から得られた一人一人の行動記録を基に、より現実的な放射線量を推計しているという特徴がある」

 ―避難指示などは年間の累積被ばく線量の推計に基づいて行われている。この調査はなぜ4カ月なのか。
 「原発事故で放出された放射性物質には、放射性セシウムのように長期にわたって放射線を出し続ける成分もあれば、放射性ヨウ素のように空気中にガス状で漂い、放射線を出す期間が短い成分もある。早くなくなってしまう成分のことを考えれば、4カ月であればまだ残っている。初期の外部被ばく線量をカバーできる期間になっている」

 ―基本調査で得られた結果は、どのように県民の健康維持に役立てられるのか。
 「調査の成果として、結果を一人一人に配ったことも挙げられる。原発事故直後、自分はどのくらい被ばくしたのか非常に不安だったと思う。科学的な情報を数値として提供できた意義は大きい。今は健康でも、将来病気になったときに『あの時、外にいたからではないか』と不安になる人も出てくるかもしれない。その際にきちんとしたデータがあれば医師に相談できるし、医師も的確に答えることができる。個人の健康管理に役立つ資料だ」
 「県民の行動記録に基づいた被ばく線量の実情を、国際機関や海外に情報発信することができるという意味合いもある」

 ―27.7%という回答率をどのように評価するか。
 「県全体でみればそのような数字だが、比較的線量が高かった相双地域の回答率は高く、半数近い。初期の被ばく線量を知りたいという人のニーズに応えた調査と考える。調査結果が県民全体の状況を正しく反映しているかどうかの検証もしている」
 「現在も調査を希望する人の行動記録を受け付けている。移動が少なかった人用に簡易版の問診票もある。記憶が薄れている人でも何とか書いてもらえるのではないか」