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通勤電車で急な腹痛…ピンチ回避の対策は? “異常がない”のに繰り返す「過敏性腸症候群(IBS)」、秋口の注意を医師が解説

2025/10/03 07:30

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とくに電車の中では困る急な腹痛

 朝の電車や会議前になると急にお腹がキリキリ、つねに下痢と便秘を行き来する――そんな経験はないだろうか?「寒暖差でお腹を冷やしただけ」「冷たいものを食べすぎただけ」などと侮るなかれ。それ、実は「過敏性腸症候群(IBS)」かも? 日本人の1~2割が抱える身近な不調で、ストレスや自律神経の乱れが関与して起こり、しかも内視鏡検査では異常が出ないという。寒暖差の影響も大きくなる秋口にはとくに注意したいお腹の不調症状について、クリニックフォア・総合内科の古田みのり先生に聞いた。

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■通勤電車や試験、会議前にお腹がキリキリ…秋口に注意したい過敏性腸症候群(IBS)

──秋になると胃腸の不調を訴える人が増えるそうですね。

 「はい。原因は様々ですが、主な要因としては、夏から秋の寒暖差によって自律神経が乱れ、胃酸分泌や腸のぜん動運動のリズムが不安定になることなどが挙げられます。結果として、胃もたれ・下痢・便秘が起きやすくなります。また秋口は、風邪やウイルス感染で胃腸炎が起きる人も増え、体調を崩される方もいらっしゃいます」

──生活面の変化も影響しますか?

 「はい。特に学生の場合、夏休み中は夜更かしや朝寝坊をしていた人でも、学校が始まって早起きや規則正しい生活に戻ることで自律神経が乱れ、胃腸の不快感や食欲不振を引き起こすことがあります。こうした生活リズムの変化だけでなく、学生は新学期・試験・部活動、社会人は通勤や大事な会議などのストレスにより、胃酸の過剰分泌や腸の動きの乱れに繋がり、症状が出やすくなります。そのため、とくにこの時期、過敏性腸症候群(IBS)には注意が必要です」

──最近では過敏性腸症候群(IBS)という病名が知られてきましたが、どんな症状ですか?

 「腸に潰瘍や腫瘍など“目に見える異常”がないのに、下痢・便秘・腹痛・張りなどお腹の不快感や便通の不調が繰り返し続く慢性的な病気です。ストレスや自律神経の乱れ、腸内環境が関与するので、秋口に増える傾向があります」

──胃腸炎や大腸炎などとの違いは?

 「『原因』と『腸の状態』が異なります。胃腸炎は炎症やウイルス感染によるものですが、IBSはストレスや自律神経の乱れが要因なので、検査では異常が見つかりません。むしろ、内視鏡検査で“異常がない”ことが診断の手がかりになります。逆に異常があれば、別の疾患の可能性が考えられます」

──IBSならではの痛みの症状とは?

 「人によって様々で、『刃物で刺されるようなキリキリとした痛み』や、『ガスでパンパンに張る膨満感』などのように表現されることがあります。排便で一時的にラクになる場合もあるものの、しばらくして再燃する人も多いようです。軽い違和感から日常生活に支障が出る強い痛みまで幅があり、繰り返す・長引く点が特徴です」

――単にお腹を冷やしたり、食あたりなどの痛みとは違いますか?

 「違いますね。同じ場面で不調を繰り返す、張り感が強いといったお腹の症状が続く場合には、IBSを疑ってよいでしょう」

──どんな場面で症状が出やすいのでしょうか?

 「登校前や試験前、通勤電車や大事なプレゼン直前など発症時には何らかのストレスが関わっていることが多いです。昔から“緊張でお腹を壊す”とよく言いますが、実はIBSに当てはまるケースだったのかもしれません」

──患者さんの数は多いのでしょうか?

  「IBSは『珍しい病気』ではなく、日本人の1~2割が抱える身近な不調です。男性は下痢型が多く、女性は便秘型、あるいは下痢と便秘を繰り返す混合型が多い傾向です」

■急な腹痛が一番怖い、朝のコーヒーや緑茶もNG?

──IBSの不安があるなら病院に行くのが一番だとは思いますが、電車内などで急な腹痛に襲われないために注意したほうがいいことはありますか?

 「まずはお腹を冷やさないこと。これから気温が下がってくるので、腹巻きや上着、カイロなどで保温すると良いでしょう。また、外出前は脂っこい料理や辛いものを控え、腸を刺激するカフェインにも注意してください」

――カフェインというと、朝コーヒーを飲む人も多いと思いますが…。

 「コーヒーだけでなく緑茶・紅茶もカフェインが多いので、お腹の調子が不安な人はノンカフェインに切り替えるのがおすすめです」

──“その場しのぎ”で市販薬を飲むのは?

 「下痢止めを携帯しておくと安心感はあると思いますが、自己判断で市販薬を飲み続けるのは、長期的に見ておすすめしません。医療機関で適切な診断を受け、症状に応じた処方薬を用いることが、再発を予防しやすくなります」

──受診する場合は何科になりますか?

 「まずは内科で相談してみてください。『気のせいかも』『恥ずかしい』と感じて受診を躊躇する方もいますが、多くの方がIBSの症状で悩まれていて決して珍しいことではないので、気軽に受診してみてください。受診に気が進まない時や、なんとなくの不調で通院時間を取れず後回しにしてしまう時は、待ち時間なく自宅でも受診ができるオンライン診療の活用もおすすめです。

 症状の出方や起きやすい場面などを問診していき、総合的に判断していきます。便秘には緩下剤、下痢には整腸薬や止瀉薬(下痢を和らげる薬)など、症状に合わせて薬を処方します。治療や、生活習慣の見直し(睡眠、規則正しい食事、ストレス緩和)で改善するケースも多いです。ただ、症状が強かったり、長引いたりする場合は、対面検査も必要になります。診断に内視鏡は必須ではありませんが、他の疾患のリスクがあるときなどは大腸カメラや胃カメラといった消化管内視鏡を勧めることもあります」

──やはり、放置はしないほうがいいですよね?

 「ストレスが軽くなれば症状が改善する場合もありますが、放置すると生活の質(QOL)が下がり、通学・通勤・仕事に支障が出ます。繰り返す・長引く・強い痛みがある人は、そのうち治ると我慢せずに早めに医師に相談していただき、症状に合ったケアや薬を取り入れてください」

【監修】
古田みのり
群馬大学医学部を卒業後、臨床研修を経て群馬大学医学部附属病院脳神経内科に入局。神経変性疾患を中心とした診療・研究に従事。その後、プライマリケアに興味を持ち、現在はクリニックフォアで主に総合内科、皮膚科のプライマリケアを行っている。

(文:衣輪晋一)

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