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「この症状は何?」インフル、コロナ、百日咳…流行中の感染症の見分け方は? 安易な市販薬使用で「合併症や慢性化のリスク」高まる場合も

2025/10/27 07:30

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発熱や咳、症状が似た感染症が多くて…

 「喉が焼けるように痛い」「子どもが咳をし始めた」「家族中が胃腸炎でダウン」──そんな声がこの秋、全国で相次いでいる。今年は、新型コロナウイルス感染症、百日咳などの感染症の流行があったほか、インフルエンザの流行も例年より早い。年々、同時期に流行する感染症の種類が増えているように見えるが…? 複数の感染症の流行がみられる中、今年の秋の感染症の特徴と対策についてクリニックフォア・総合内科の井上隆博先生に聞いた。

【一覧】インフル?コロナ?百日咳? 多すぎ!感染症の見分け方

■流行している感染症多くない? 秋冬に注意すべきは…

──この秋、流行中の感染症について教えてください。

 「まず、今年はインフルエンザの流行が非常に早いです。例年12月以降に増えることが多いのですが、今年は9月の時点で学級閉鎖が出るほど。10月3日には厚生労働省から、『全国的な流行シーズンに入った』との発表もありました。まだ秋なのに、という印象を持たれる方も多いと思いますが、コロナ禍による免疫リセットの影響が大きいと考えられます」

──免疫リセットとは?

 「数年間にわたるコロナ禍で外出や交流が減り、さまざまなウイルスに接触する機会も減少したことで、免疫を獲得する機会が減ったと考えられます。さらにマスクや手洗いなどの感染対策の意識が薄れたところに、寒暖差や空気の乾燥といった環境要因が重なり、感染症が広がりやすい状況が生じたとみられます」

──新型コロナウイルス感染症も再び増えてきています。

 「現在の新型コロナウィルスの流行の主流は“ニンバス”と呼ばれる変異株だと言われており、『カミソリで切ったような激しい喉の痛み』が特徴です。熱が高くなくても喉の痛みだけが強い場合、新型コロナウィルスの感染の可能性があります」

──ほかに流行している感染症は?

 「百日咳に罹患する患者さんも依然としてみられます。強い咳が何週間も続くのが特徴で、風邪が長引いているだけだと思って出社した人から、職場内で感染が広がるケースも見られます。加えて、RSウイルスやアデノウイルスも例年より早めに患者さんが増えています。RSウイルスは乳児や高齢者の方が重症化しやすく、アデノウイルスは喉の痛みや高熱、結膜炎を伴う咽頭結膜熱を引き起こす可能性もあります」

──少し前に話題になったリンゴ病(伝染性紅斑)や、昨年流行したマイコプラズマ肺炎はいかがでしょうか。

 「リンゴ病は今年の夏から秋にかけて流行しました。頬がリンゴのように赤くなり、子ども中心に流行が見られましたが、大人が感染すると関節痛や倦怠感が出ることがあります。流行の勢いは落ち着いたものの、今でも感染が確認されています。一方、マイコプラズマ肺炎は去年のような大きな流行のピークは見られず、落ち着いている印象です」

──かなり感染症の種類が多い印象ですが、どのような理由からでしょうか。

 「海外旅行や訪日観光客の増加で、様々な感染症が持ち込まれることが増えたのも理由の一つだと考えられます。一方で、医療機関での迅速検査などが広がり、感染症と診断されるケースが増えたという面もあります。メディアで取り上げられることも多く、“念のため”と医療機関で受診することが一般化したのも大きいと思います」

──どの感染症も症状が似ていますが、見分けるポイントはありますか?

 「症状の出方と経過を注視してください。インフルエンザは急激な発熱と関節痛が特徴です。新型コロナウィルスは喉の激しい痛みが主な症状として挙げられます。リンゴ病は頬や腕の紅斑、RSウィルスやアデノウイルスは子どもの咳・鼻水・目の充血が多くみられます。百日咳は熱は上がらないものの、顔が赤くなるような激しい咳が長く続きます。マイコプラズマ肺炎は乾いた咳が2週間以上続くのが特徴で、溶連菌感染症は喉の激しい痛みに加え、喉に白い膿がついていることが多いです。百日咳やマイコプラズマ肺炎、溶連菌感染症の治療には抗菌薬が必要です。ただ、自己判断は危険ですので、症状が3日以上続いたり、悪化したりする場合は医療機関で医師の診察を受けていただくことをおすすめします」

──風邪だと思って、市販薬で済ませる人も多そうですが…。

 「それは注意が必要です。一般的な風邪薬で症状が改善しない場合、溶連菌や百日咳など細菌性の感染症の可能性があります。風邪だと思っても、3日程度経って症状が改善しないようであれば医療機関での受診をおすすめします。抗菌薬・抗ウイルス薬が必要なケースを見逃すと、合併症や慢性化のリスクが高まります」

──年末に向けて忙しくなる人も多いでしょうし、病院に行く時間がない場合は?

 「通院時間を取れず後回しにしてしまう際には、待ち時間なく自宅でも受診ができるオンライン診療の活用もおすすめです。喉の痛みや咳の経過を聞き取り、症状に応じた薬の処方や必要であれば対面での受診や検査をご案内します。ただし、すでに高熱、呼吸困難、膿、発疹、倦怠感がとても強い…など、症状が明らかに重い場合は、検査や迅速な治療が必要となる場合もありますので、すぐに対面受診することをおすすめします」

■春先まで続く感染症の流行、「インフルエンザと百日咳は冬に再燃する可能性」

──さまざまな感染症が流行していますが、同時感染の可能性もありますか?

 「はい。例えば、新型コロナとインフルエンザの同時感染はクリニックでもしばしば見かけます。発熱・喉の痛み・倦怠感など症状が重なるため、自己判断では区別が難しく、検査してみたら両方陽性だった…というケースも珍しくありません。また、ウイルス性胃腸炎も流行しているので注意が必要です」

──あらためて、総合的な予防策を教えてください。

 「手洗い、うがい、マスクは基本です。加えて、十分な睡眠、バランスの良い食事、室内の保湿も心がけましょう。ちなみに、“これを食べれば免疫力が上がる”という特効薬的な食品はありません。何よりも規則正しい生活リズム、それこそが最大の免疫強化策と言えます」

──最後に、今年の感染症の見通しをお願いします。

 「感染症は今後もピークをずらしながら春先まで続くでしょう。特にインフルエンザと百日咳は冬に再燃する可能性があります。“自分は大丈夫”と思わず、体調に異変を感じたら早めに医療機関で受診してください。ご自身で判断に迷う場合や、時間がない方はオンライン診療の利用もおすすめです。 “感染を防ぐこと”と“広げないこと”の両立が大切です」

(文:衣輪晋一)

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