首都圏「本社移転」動向調査(2025年上半期)

帝国データバンクは、2025年1~6月に首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉:1都3県)⇔地方間をまたいだ「本社所在地の移転」が判明した企業(個人事業主、非営利法人等含む)について、保有する企業概要データベースのうち業種や規模が判明している企業を対象に分析を行った。
SUMMARY
2025年1-6月に地方から首都圏へ本社機能を移転した企業は200社で、過去10年で最多だった。首都圏から転出した企業は150社で前年から減少し、全体では50社の「転入超過」となった。中小企業がビジネスチャンスを求めて首都圏に移転する動きが目立つ。転出企業の業種別では「サービス業」が最多。地方から首都圏への転入企業も「サービス業」が最多で、「卸売業」「小売業」も多い。企業の「脱首都圏」から「首都圏回帰」の動きが見られる。
[注1] 本社とは、実質的な本社機能(事務所など)が所在する事業所を指し、商業登記上の本店所在地と異なるケースがある
[注2] 首都圏の企業転出・転入は、首都圏内外をまたぐ道府県との本社移転を指しており、首都圏内での県境をまたぐ本社移転は含まれない
首都圏への本社移転、過去10年で最多 5年ぶり「転入超過」へ
2025年1-6月に判明した、地方から首都圏へ本社機能を移転した企業は200社に上った。過去10年で最も多く、前年を47社・30.7%上回る高水準で推移した。このペースが続いた場合、首都圏への企業移転は1990年以降で初となる400社台に到達する可能性がある。
他方、同期間における首都圏からの転出企業は150社で、前年から17社・10.2%減少した。コロナ禍により首都圏外への転出が増加した2021年以降では最少となった。

この結果、2025年1-6月における首都圏への本社移転動向は、転入企業が転出企業を50社上回る「転入超過」となった。半期で転入超過となるのは2019年(17社の転入超過)以来6年ぶりで、超過社数は比較可能な2011年以降で最多となった。このペースで推移した場合、通年では5年ぶりに「転入超過」が見込まれ、転入超過社数も2015年(104社の転入超過)を上回り、過去35年で最多となる可能性がある。地方からビジネスチャンスを求めて首都圏に移転する中小企業が目立つなど、首都圏エリアの企業吸引力が急回復しており、企業の「脱首都圏」の動きは減速の兆しがみられる。
地方から首都圏へ転入した企業の業種では、「サービス業」(80社)が最も多かった。大幅に増加した前年(68件)を上回り、通年で見ても1990年以降、最多ペースで推移した。サービス業の首都圏転入では、「受託開発ソフトウェア業」(14社)が最も多かった。「卸売業」(32社)は前年同期(19社)から大幅に増加し、「小売業」の29社(前年18社)が続いた。

首都圏から地方へ転出した企業の業種でも、「サービス業」が50社で最も多かった。同業種としては、過去2番目に多かった2024年を下回り、コロナ禍以降では最少規模となった。サービス業のうち、最も多いのはコールセンターなどを含む「他の事業サービス」(11社)で、「経営コンサルタント業」(6社)、「広告制作」(3社)などが続いた。次いで多い「卸売業」(34社)は、前年同期(31社)から3社増加し、機械類や食品、化粧品など幅広い業種での移転が目立った。また、「小売業」(21件)は前年からほぼ倍増となり、半期としては過去5年で初めて20件を超えた。
首都圏への「転入元」は計33道府県、2年ぶり増加
地方から首都圏へ転入した企業を売上高規模別にみると、「1-10億円未満」(84社)が最も多かったものの、前年同期からの増加幅では「1億円未満」(79社)が24社増と最も多かった。売上高「100億円以上」(9社)は増加したものの、売上高10億円以上の企業が首都圏への転入に占める割合は半期ベースで18.5%と3年ぶりに2割を下回ったほか、コロナ禍以降では最少となった。
首都圏から地方へ転出した企業では「1億円~10億円未満」(71社)が最も多く、前年から増加した。一方で「1億円未満」(55社)は大幅に減少し、半期ベースでもコロナ禍以降で最少を記録した。首都圏外への企業移転は、コロナ禍前に多かったIT関連産業など小規模な企業の動きが中心だったものの、近時は中堅規模以上の企業で首都圏から本社を移転するケースが増加した。

地方から首都圏へ移転した企業の転入元では、「大阪府」(40社)が最も多かった。「福岡県」(22社)は、半期ではコロナ禍以降で初めて20社を超えた。転入元は33道府県にのぼり、前年(28)から増加した。総じて、地方から首都圏に企業が集中する「首都圏一極集中」の動きが強まった。
首都圏から地方へ移転した企業の転出先では、「大阪府」の17社が最多で、半期としては3年ぶりに20社を下回った。「静岡県」(15社)、「茨城県・愛知県」(13社)など、首都圏企業の移転先は総じて首都圏近隣または大都市部に集中する傾向が続いた。移転先は29道府県にとどまり、前年(35)から減少するなど、首都圏から転出する企業は、コロナ禍で目立った「遠方・広範囲」への動きから、東京などアクセスしやすい首都圏近郊へ回帰する動きが続いた。

首都圏への「一極集中」再び加速
2025年の本社移転動向は「脱首都圏」の動きから、地方からビジネスチャンスを求めて首都圏に移転する成長企業が再び増加したことで「首都圏回帰」のトレンドに変化する兆しもみられる。WEB会議を活用したビジネススタイルやリモートワークの浸透、BCP対策による拠点の分散化、地方創生に貢献する企業ブランドイメージ、従業員のワークライフバランス向上といった地方移転におけるメリットに対する理解は、コロナ禍を経て企業経営者にも一定の浸透に成功したとみられる。他方で、対面での営業活動が再び活発になったことで、取引の機会を求めて首都圏への進出を希求する企業は少なくないほか、首都圏に本社機能を有することによる対外的な信用やブランド面での優位性が高まり、激化する採用環境のなか、新卒採用などの人材獲得がしやすいといったアドバンテージがあることも、結果として企業が首都圏に誘引される要因となった可能性がある。
2025年の首都圏における本社移転は、政府による地方創生に向けた議論が再び加速するなかで、災害に備えた首都圏以外への本社機能の分散やバックアップ拠点の確保といった動きもあるものの、全体としては5年ぶりに転入超過へと転じるとみられる。
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