【エールのB面】福島聖ステパノ教会 静かに守られた...ファンの聖地

朝ドラ「エール」で主人公のモデルになった古関裕而のふるさと、福島市。「朝ドラ」効果で徐々に観光客も増え始め、福島編の重要な役割を果たした洋風建築物が注目を集める。今年で築115年を迎えた「福島聖ステパノ教会」。劇中に登場する美しい光景が反響を呼び、ファンの"聖地"となっている。
明治期に誕生
福島市置賜町の繁華街にひっそりと立つ小さな教会。外観はこぢんまりとした印象を受ける。建物に入ると、天井はなく梁(はり)が見える構造のため狭さは感じない。神聖な祭壇、白塗りの壁、木材の質感が相まって荘厳さを漂わせる。屋根の部材に竹を使っていたり、一部で畳を敷いているなど"和"を感じさせる造りも特徴だ。
近代化に伴って古関が過ごした時代の街並みはほとんど失われた市の中心部。「街中にこんな建物があったとは」。初めて教会を見学した記者も驚きと感動を覚えた。時代の流れに反し、この教会だけは時間が止まっているかのよう。福島の歴史の面影を今に伝える貴重な財産といえる。
明治時代に設立されたキリスト教の教派「日本聖公会」の東北地方の最初の拠点として、1891(明治24)年、市内に講義所が設けられ、1905年に現在の教会が建てられた。設計には米国出身の建築家・宣教師ジェームズ・ガーディナー(1857~1925年)の指導があった。ガーディナーは全国に洋風建築物を残し、立教学校(現・立教大の前身)で校長を務めた教育者でもある。
建物ほれ込む
「番組関係者が撮影前に市内を下見した際、たまたま教会の前を通り、建物にほれ込んだと聞いています」。教会の渡部拓牧師(35)がロケ地に選ばれた経緯を教えてくれた。昨年の夏前に制作陣から撮影場所に使わせてほしいと要請され、教会役員で協議し「福島が舞台なので貢献しよう」と協力を決めたという。
ロケは昨年10月に行われた。機材などを積んだトラック2台が来て、大勢のスタッフが準備を進めた。建物内に照明用の足場を組み、玄関や窓から外の風景が見えないよう目隠しを施したり、スモークを発生させたりと思ったより大掛かりだった。渡部さんは「制作陣の朝ドラに懸ける本気さが伝わった」と振り返った。劇中では「川俣の教会」との設定で登場する。撮影シーンは〈1〉タイトルバックで使われている裕一(窪田正孝さん)がオルガンを弾くシーン(月曜日の90秒版のみ)〈2〉幼少期の裕一と音(二階堂ふみさん)が初めて出会うシーン〈3〉大人に成長した裕一と音が話し合うシーンなど。ちなみに教会のオルガンが演奏され、音声もそのまま使われている。
「朝ドラの放送を見るたびに教会の魅力を再確認しています。信徒の皆さんからも『よく撮れていてすてき』と好評」と渡部さん。放送を機に見学者が相次いでいる。渡部さんは「教会は誰にでも常に開かれた存在。多くの人が訪れてくれることがうれしい」と語った。
音楽の街が古関育てた
「福島聖ステパノ教会」が建設された4年後に福島市に生まれた古関。幼少期から青春時代を過ごした県都の大正時代から昭和初期の様子はどうだったのだろうか。
古関は1909(明治42)年8月11日、福島市大町の老舗呉服店「喜多三」に生まれた。当時、生家周辺は金融機関が軒を連ねる経済の中心地だった。現在の生家跡にはSMBC日興証券福島支店が営業しており、生誕の地の記念碑が立つ。
市史編纂(へんさん)室の守谷早苗さん(68)は「大正時代から不景気ではあったが、昭和初期にデパートが建つなど急激に街が栄えた」と語る。流行していたハーモニカのバンド「福島ハーモニカ・ソサエティー」が活動し、社会人の音楽愛好家でつくる「火の鳥の会」のレコードコンサートも開かれた。守谷さんによると「福島は音楽の街でもあった」。
古関は両方の団体に参加。特に火の鳥の会ではストラビンスキーなど最先端の音楽を聴き、近代音楽に触れた。自伝で「強烈な音楽体験だった。それ以来、近代フランス、ロシアの音楽に夢中になった」と振り返った。守谷さんは「福島の豊かな音楽文化が古関を育てた」と話す。
福島市内では現在、古関関連の展示会が各地で開かれている。福島聖ステパノ教会から歩いてすぐの同市大町のNTT大町ビルで開かれている「古関裕而まちなか青春館」では、古関の生家「喜多三」で掲げられた大型看板が注目だ。程近い「チェンバおおまち」では「エール展」と銘打ち衣装や小道具、再現した撮影セットを紹介している。
古関裕而記念館では、古関直筆の楽譜など資料約600点を展示。古関の書斎の復元展示や実際に使用したハモンドオルガンもある。同記念館に近い「とうほう・みんなの文化センター」では23日まで、福島民友新聞の記事などを通して古関を紹介する企画展を開催。元福島民友新聞記者で、古関と共に名曲を生み出した作詞家野村俊夫も紹介している。
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