【まち中華物語】とん珍・須賀川市 地元っ子みんなの味

 
店の代名詞でもある「ソース焼そば」を調理する水落行男さん

 須賀川市役所から徒歩5分の市街地に、戦後間もなく始まった屋台が発祥の中華料理店「とん珍」がある。現店主の水落(みずおち)行男さん(57)の祖父に当たる卯八(うはち)さんから数えて親子3代、70年以上の歴史を持つ店は、発展していく須賀川のまちと共に歴史を歩んできた。

 屋台で売り歩く

 店の原点となる屋台は1950(昭和25)年、東京で料理人を務めて昭和天皇に料理を提供した経験もある卯八さんが、妻せんさんと一緒に妻の古里の須賀川に移り住んだことで始まった。戦後の復興が始まったばかりで、まだ使える食材も限られた時代。卯八さんは麺や野菜をソースと合わせたシンプルな焼きそばを主力商品に、屋台を引いて市内を売り歩いた。行男さんは「須賀川の人は団塊の世代からみんな、うちの焼きそばを知っている」と笑顔を見せる。

 60年には、現店舗の向かいに初の店舗となる「元祖焼そば豚珍」を開業し、68年には現在の土地に店を移転した。須賀川のまちが経済的に盛り上がった時代で、「店をやればやるだけ、次々と人が来る」ほどの盛況ぶりを見せ、店は規模をどんどん広げていった。この頃には卯八さんの娘で行男さんの母ミキ子さんと夫の不朽(くちず)さんも加わって料理を作り、家族で力を合わせて店を切り盛りした。

 昭和末期には市内の観光人気が高まり、桜の名所・翠ケ丘公園や須賀川牡丹園が大いににぎわった。店は観光客の胃袋をつかまえるため、花の時期になると大量に焼きそばを作って販売した。ボタンが盛りを迎える5月の大型連休前後は特に忙しく、毎朝3時ごろからひたすら焼きそばを焼き続け、牡丹園に約500食を運んだという。行男さんは「大きな道はどこも渋滞していたから、バイクで細い道を縫って届けた」と当時を懐かしむ。

 卯八さんが屋台で売り歩き、店を初期から支えてきた焼きそばは、今も「ソース焼そば」の名前で提供されている。卯八さんの時代から変わらない伝統の製法で作られており、具材は野菜がメインだ。最初は鉄板でしっかりと麺を焼き、鶏ガラスープを落とし込んで熱と蒸気で蒸す。その後は麺が切れないよう、麺をスープになじませてからソースを絡めてかき混ぜる。麺全体に味が染みわたった「冷めてもおいしい麺」が自慢だ。

 冷めても美味に

 焼きそばのほかにも、現在はラーメンやチャーハン、酢豚など定番の中華料理を提供。横浜の中華料理店で修業した行男さんが腕を振るう。行男さんの妻由美さん(51)も鉄板に向かって焼きそばを焼き、卯八さんから続く味を大事に受け継いでいる。

 元号が令和となった現在、新型コロナウイルス感染症の影響で会食控えが進んだ代わりに、店ではテイクアウトの人気が伸びてきた。屋台の名残で、店ではコロナ禍前からテイクアウトを行っており「冷めてもおいしく食べられる、クオリティーの落ちない料理が大切だと昔から思っていた。コロナ禍になってもすぐに切り替えられた」と行男さんは胸を張る。

 1台の屋台から始まった老舗は、昔からのノウハウを生かしながら、時代ごとのニーズに応えてきた。店はこの先も、時代ごとに変わりゆく須賀川のまちと共に歩みながら、変わらない味を届けていくはずだ。「そのうち、キッチンカーもやってみたいな」と笑う行男さん。現代版の屋台が須賀川に"復活"する日も近いのかもしれない。(秋山敬祐)

お店データ

とん珍の地図

【住所】須賀川市本町23

【電話】0248・75・1188

【営業時間】午前11時~午後3時、午後5時~同9時

【定休日】火曜日

【主なメニュー】
▽ソース焼そば=462円
▽海鮮焼そば=880円
▽らーめん=605円
▽チャーハン=748円
▽麻婆(マーボー)豆腐=770円
▽酢豚=770円
▽エビのチリソース煮=825円
▽自家製餃子(ギョーザ)=407円
▽八宝菜=770円
▽野菜炒め=770円

 【店主メモ】現店舗は2000(平成12)年に完成した。「中華料理店らしくない斬新な建物にしたい」という行男さんの思いが形となった。メタリックで現代的な外観が特徴で、行男さんは「通りかかった人が『何の建物だろう』と店に興味を持ってくれる」と誇らしげに語る。

店の外観は、行男さんの思いがこもった現代的なデザインとなっている

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。