【まち中華物語】中國菜館萬壽園・郡山市 忘れられぬ青春の味

 
店を切り盛りする小林さん(左)、美保さん夫妻。店には学生らのおなかを満たすメニューがそろう

 青春時代に親しんだ味は、何年たっても忘れることがない。日大工学部のほど近くに立つ店には、多くの学生や卒業生らの思い出が詰まっている。

 学生たちとの絆

 店主の小林勝則さん(68)が妻美保さん(66)と店を開いたのは1978年。父の故勝太郎さんが学生向けの下宿を始める際、東京や仙台で中華料理の修業をしていた小林さんに「まかないを手伝ってくれないか」と声をかけたのがきっかけだった。

 当時、周辺には下宿のほかアパートが立ち並び、多くの学生たちが生活していた。そこで、学生たちが気軽に来られるような中華料理店をオープンさせることになった。

 「その頃はコンビニなんてなかったから、食事に来てくれる学生さんは多かった。当時の客の8割ぐらいは学生だったね」と小林さん。夜は、飲んで騒いで盛り上がる学生たちでいっぱいだった。

 経営していた下宿の学生たちのための食事も作る中、下宿生との絆も強まった。小林さんが監督となって下宿生たちとソフトボールチームを結成し、郡山市や地区の大会に出場した時期もある。「若いチームだから強かったんだよ」と誇らしげだ。

 店が忙しい小林さん夫妻に代わり、下宿生たちが小林さんの子どもたちを遊びに連れて行ってくれることもよくあった。美保さんは「うちの子どもたちは下宿生に育ててもらったようなもの」と懐かしむ。

 十数年の下宿業の後、アパート経営に移行したが、当時の思い出は今も胸に残る。下宿生たちも同様で、卒業から長年たっても年賀状のやりとりが続いている。

 豊富なメニューの中でも、特に学生たちに好まれてきたのは開店時からの看板だった「ホイコーロー」。たくさんの肉と野菜が甘辛のみそだれで炒められ、ご飯のお供に最高だ。久しぶりに店を訪れた卒業生が頼む料理も圧倒的にホイコーローが多い。学生に安く腹いっぱい食べてほしいとの思いから、「学生定食」も提供し続けている。

 客の声が励みに

 先月、4年ぶりに対面式で開催された日大工学部の学園祭の日には、店の前で記念撮影する卒業生らの姿があった。彼らは九州など遠方から約40年ぶりに母校を再訪したという。店で懐かしの味に舌鼓を打ちながら、思い出話に花を咲かせた。

 店で代々アルバイトをしてきたのも日大工学部の学生だ。美保さんは「縁のあった学生さんが久しぶりに来てくれると本当にうれしい」と話す。

 40年以上の歴史の中、さまざまな困難も乗り越えてきた。東日本大震災の際には翌日から営業を再開。3年前の東日本台風では河川の氾濫で店が床上浸水したが、2日間休んだだけで営業にこぎ着けた。いずれの時も「お客さんが待っているから」との思いが背中を押した。

 年齢を重ねたこともあり、小林さんはホールでの仕事が主になったが、混雑時には調理場に立つ。「いつまでやれるか分からないが、うちの味を楽しみにしてくれるお客さんがいることが何よりの励み」。今日も来店者の「味の記憶」を刻み続ける。(高橋敦司)

お店データ

中國菜館萬壽園の地図

【住所】郡山市安積町日出山字一本松211

【電話】024・943・1809

【営業時間】午前11時~午後9時(ラストオーダー午後8時30分)

【定休日】毎月第3火曜日

【主なメニュー】
▽ホイコーロー定食=950円
▽とりの唐揚げ定食=950円
▽レバニラ炒め定食=950円
▽黒酢酢豚定食=1100円
▽五目ラーメン=1000円
▽五目焼きそば=1000円
▽五目中華飯=1000円
▽五目チャーハン=950円
▽ホイコーロー・とりの唐揚げセット=1250円
▽とりの唐揚げ・ギョーザセット=1200円
▽とりの唐揚げ・マーボー豆腐セット=1450円

【店主メモ】愛犬と近所を散歩することが日課。「犬と一緒にいると癒やされる」。友人たちとのゴルフもリラックスできるひとときという。

「ホイコーロー」と「とりの唐揚げ」看板メニューの「ホイコーロー」と「とりの唐揚げ」

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。