【まち食堂物語】すずき食堂・南相馬市 「ごまかさない」が信条

 
すずき食堂の(左から)良仁さん、利恵さん、未来さんと裡斗ちゃん、仁成さん。「まっとうに、ごまかさないでやる」をモットーにこだわりの料理を届ける(矢内靖史撮影)

 父の言葉大事に

 ステーキのような厚みがある焼肉定食、優しい味わいのチャーハン、豪快なかつカレーラーメン―。60種類以上が並ぶメニュー表に、来店客は目を輝かせる。南相馬市鹿島区のJR常磐線鹿島駅の駅通りにある「すずき食堂」は、鈴木良仁さん(49)家族が作るこだわりの料理を求める客であふれる。

 お勧めは国産の豚ロースに肉のうまみやあぶらを25年以上つぎ足している特製のたれをかけた焼肉定食。良仁さんは「うちは肉には特にこだわっている」と自慢する。焼肉ととんかつの定食は創業以来の名物で、客の胃袋をつかむ。

 元々は精肉店だった。良仁さんの祖母ハツミさんが鈴木肉店を営んでいたが、1967年に良仁さんの父良次さんが外食をしてはその味を再現するなどして独学で食堂を開いた。良仁さんが調理場に立ったのは19歳の時。高校卒業後、愛知県のトヨタ自動車に勤めていたが、良次さんの体調が優れないと聞き帰郷した。良仁さんはその後、トヨタで知り合った妻利恵さん(49)と結婚。30代の頃には良仁さん夫妻が店を切り盛りするようになった。

 良次さんは2015年に死去。利恵さんは良次さんから言われた「肉は(値段を)上げんなよ」の言葉が耳に残っている。口数が少ない職人気質の良次さんだったからこそ、遺言のように大事にしており、焼肉ととんかつの定食は消費税の増税分くらいしか値上げはしていない。

 店のモットーは「まっとうに、ごまかさないでやる」。既製品を使わず、定食の付け合わせの漬物やサラダのほか、ラーメンのスープやうどんのたれまで手作りだ。良仁さんは「手間はかかるし大変なんだ。でも、うまいって言ってもらえばね」とほほ笑む。営業終了後には毎日、夫婦で反省会を開き、味や一日の動きを振り返る。仕出しや弁当も作っており、利恵さんは夢の中で「どんなメニューにしようか」と考えることも。外食に家族で出かけると、料理に何が入っているのか、どうしてこの味が出せるのか、つい考えてしまう。「楽しみに行っているのか、勉強しているのか分からないよね」と利恵さんは苦笑いする。

 家族でもてなす

 東日本大震災や新型コロナウイルス、2度の本県沖地震と何度も困難に直面した。断水の影響で営業ができなくなったり、売り上げが激減したりもしたが「地域の人に支えられた」と利恵さん。震災の2週間後に営業を再開した時、「温かいものが食べられる」と、店の前に大行列ができた当時の感動が鮮明に残る。「再開を聞いて(避難先から)帰ろうと決めた人もいたみたい。うれしかった」と利恵さんは話す。新型コロナ禍に思い切って値下げして始めたテイクアウトは今も続く。

 コロナが落ち着き、にぎわいが戻ってきた。今では長男の仁成さん(26)と妻未来さん(26)も店に立ち「とにかく優しく、頼もしい」と利恵さんは目を細める。昨年には孫の裡斗(りつ)ちゃん(11カ月)も誕生。良仁さんは「息子も嫁も孫もいる。なおさら頑張らないと」と力を込める。これからも家族経営で、客を心温まる料理でもてなす。(佐藤健太)

お店データ

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調理場に立つ良仁さん(手前)と仁成さん。家族経営で、客を心温まる料理でもてなす

【住所】南相馬市鹿島区鹿島御前ノ内35

【電話】0244・46・2390

【営業時間】午前11時~、売り切れ次第終了

【定休日】日曜日

【主なメニュー】
▽焼肉定食(200グラム)=1100円
▽とんかつ定食(200グラム)=1100円
▽かつカレーラーメン=900円
▽チャーハン=700円
▽味噌ラーメン=680円
▽かつ丼=860円
▽ハツミおばあちゃんのから揚げ定食=900円
▽チキンカツ定食=980円
▽チャンポンメン=850円
▽ラーメン=600円
▽肉うどん=580円
▽もやしラーメン=680円

240211syokudo3.jpg(手前から時計回りに)焼肉定食、チャーハン、かつカレーラーメン

 居心地の良い店内

 広々としたゆとりのある店内も食堂の魅力の一つ。テーブルは大きめで、椅子も座りやすいようにくぼみがついている。利恵さんは「ゆっくりして、笑顔で帰ってほしい」と丁寧な接客を心がけており、来店客と会話をするのが楽しみ。「また足を運んでもらえるような環境をつくるのが私たちの役目。どんな時も笑顔で」。利恵さんは調理の傍ら、未来さんと共にホール担当としても居心地の良い空間を提供している。