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【1月10日付社説】USスチール/買収禁止は日米の不利益だ

2025/01/10 08:10

 バイデン米大統領の理不尽な命令により、日米双方に不利益が生じる。対応を改めるべきだ。

 バイデン氏が、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収を禁止する命令を出した。買収が「安全保障と重要な供給網にリスクをもたらす」と説明した。

 かつて世界最大の鉄鋼メーカーだったUSスチールは現在、競争力が低下し、業績不振にあえいでいる。買収には2兆円超の投資でUSスチールを再建し、生産性向上や供給網の強化を図る狙いがある。雇用維持にもつながる。

 世界シェアの半分超を占める中国の安い鉄鋼がさらに大量に輸出され、国際市場をかく乱する恐れが高まっている。買収による日米の供給網の強化は、中国を念頭に置いた日米の安全保障の確保に貢献するとの見方がある。

 しかしバイデン氏は買収に反対する全米鉄鋼労働組合(USW)の執行部に同調し、大統領選での労組票の獲得を狙った。USWに配慮する姿勢は選挙後も鮮明で、日鉄とUSスチールは今回の命令を「政治的な判断」と批判する。

 両社の合意に基づく買収計画が政争の具とされた上、安全保障上のリスクを理由に同盟国からの投資を阻むのは理解に苦しむ。

 日鉄とUSスチールは、違法な政治介入により買収に関する審査が適正に行われなかったとし、大統領命令の無効を求める訴訟を提起した。ただ安全保障に関わるとして、命令の前段に行われた審査記録などが明らかにされない展開が想定される。このため同時に起こしたUSW会長らへの訴訟で、買収阻止が政治的な目的によるものであるとの証拠を集める。

 3億人を超える人口がなお増え続け、世界一の経済規模を有する米国は日本にとって最も重要な市場だ。大統領命令を受け、日本の経済界からは対米投資の萎縮(いしゅく)を懸念する声が相次いでいる。

 訴訟でバイデン氏の判断の妥当性を問うことは、今後、日本企業が米国企業を買収する際に大統領が安易に介入することへの歯止めにもなり得る。日本政府は、買収禁止命令が日本経済に与える悪影響を踏まえ、日鉄を側面支援することが重要だ。

 鍵を握るのは20日に大統領に就任するトランプ氏だ。バイデン氏と同様、買収に反対の姿勢を示してきた。一方、第1次政権ではビジネス感覚で外交に臨み、国益を追求してきた経緯がある。

 石破茂首相は、買収禁止が中国を有利にし、米国のビジネス上の損失であることをトランプ氏に説き、交渉する必要がある。

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