東京電力福島第1原発事故に伴う除染で出た土のうち、放射性物質濃度の低いものを公共事業などで使う再生利用は、県外最終処分に向けた廃棄物の減量に欠かせない。第1、第2の両原発から送られた電気を使ってきた首都圏はもとより、県内でも再生利用の議論を深めることが重要だ。
再生利用を巡り、双葉町の伊沢史朗町長が先月下旬、私見とした上で「首都圏での理解を進めるには、まずは県内で再生利用に取り組む必要がある」と述べた。町内でも住民の理解を最優先に、将来の造成工事などで必要があれば利用を検討する可能性を示した。
発言の背景には、再生利用の理解醸成が遅々として進まないことへの危機感がある。環境省の2023年度の調査で、再生利用が居住地域で進められることを「良いと思う」と答えた県外の人は、「どちらかといえば」と合わせ2割にとどまった。国が首都圏で計画した実証事業は、地元の反発で事実上、頓挫した。
首都圏も再生利用を議論すべき当事者であり、理解が進まないのは、その意識を喚起する国の取り組みが不足している証拠だ。結果的に、伊沢氏に私見を示させる形になったのは、国の怠慢と言わざるを得ない。
除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設の建設受け入れについて、伊沢氏は「苦渋の決断という言葉では言い表せない」と振り返る。その経験を踏まえ、「多くの自治体が再生利用に取り組むことで、最終処分を含め、それぞれの負担を軽くできないか」としている。
県内外の自治体が協働することで事態を打開したいという伊沢氏の考えは理解できる。ただ、関係者の中には、県内でのみ再生利用が進められるのではないかとの懸念がある。国には、県外での再生利用への見通しをつけ、懸念を払拭することが求められる。
大熊町に、再生利用の取り組みなどを発信する国の拠点が開所するが、情報を届けるべき相手は被災地を訪れる人以外にもいる。国は、首都圏での情報発信を強化し、関心の薄い人の目を被災地に向けさせることが急務だ。
県内各地で除染作業が進み、1300カ所以上あった仮置き場が解消されたのは、中間貯蔵施設があったからだ。伊沢氏の危機感の中には、そうした事実が風化することへの懸念もある。
県内で再生利用の実証が行われた自治体は飯舘村と南相馬市にとどまる。除染が行われた他の市町村も、どのように負担を分かち合えるのか検討してほしい。