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【3月7日付社説】廃炉「40年」の約束 震災14年/現実直視し腹割った議論を

2025/03/07 08:05

 廃炉の難しさを直視せず、ゴールを定めることすらできていない現状は、誰のためにもならない。

 東京電力は昨年、福島第1原発事故から13年を経て、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)0.7グラムの採取に成功した。ただ、燃料デブリの総量は880トンに上るとみられ、国と東電の掲げる事故から40年となる2051年までの全量除去、廃炉が極めて厳しい状況にあるのは間違いない。

 原子力規制委の歴代委員長や、原子力学会に所属する専門家は、期間内での廃炉は極めて困難と何度も指摘している。早稲田大大学院の松岡俊二教授(環境政策論)は、廃炉まで30~40年という数字を導く基となった米スリーマイル島原発の事故後の作業との比較などから、第1原発の燃料デブリ取り出しには「楽観的に見て68年、厳しく見ると170年が必要となる」と話す。

 第1原発と同様に廃炉が決まった福島第2原発の廃炉ですら40年超かかる見通しとなっている。

 東電の小早川智明社長は51年までの廃炉について「40年で廃炉を貫徹することは地域の復興と両立を図るために定めた時間軸なので簡単に諦めない」とする。ただ、「廃炉の最終形態を見通せる段階ではない」とも話している。

 新技術などにより燃料デブリの取り出しが急速に進む可能性は皆無ではない。ただし、デブリ除去以外にも、廃炉作業で生じた放射性廃棄物の処分をどうするかという大きな課題がある。

 国と東電は、識者らの声から目を背けているようにも見える。こうした指摘に正面から向き合うことなしに、目標期間内での廃炉完了を掲げ続けるのは無理がある。

 廃炉の最終的な形やそれに至る道筋を示さないこと自体が、東電が廃炉の理由に挙げる地域の復興を妨げる要因となることをきちんと自覚すべきだ。

 現状の技術や知見を用いることで、40年の間にどこまで作業を進められるのかを示さなければならない段階に来ている。

 内堀雅雄知事は国に対して「実際には廃炉に何年かかるのかを示してほしい」と求めている。地元側にも、51年までに燃料デブリの取り出しや廃炉全般を終えるのは難しいという見方は徐々に広まっている。知事の求めは、より現実に即して廃炉の議論を進める必要性を地元も感じているという意思表示とみるべきだろう。

 地元、国、東電が腹を割り、40年でできるかどうかではなく、まずは今後の廃炉の在り方を話し合うことが求められる。

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