ある日、男が自分の名前を思い出せなくなる。自らの名刺に名前を盗まれてしまったらしい。行く先も判然とせぬまま、さまよい歩くうち、さまざまな罪を着せられ、不条理な裁判にかけられることになる ▼安部公房の「壁―S・カルマ氏の犯罪」。名前と所属を記した名刺が当人より幅をきかせる構図は、現代社会への風刺に違いない。男は身の寄せどころを失った感覚に陥って、最後には無機質な壁となってしまう ▼「なぜ人は...
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