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【11月8日付社説】会計検査院報告/血税を扱う緊張感に欠ける

2025/11/08 08:00

 公金を扱うという緊張感を忘れたかのような、ずさんな事案が繰り返されている。国民が納めた税金が原資であることを肝に銘じ、改善を急ぐべきだ。

 会計検査院が、官庁や政府出資法人を調べた2024年度の決算検査報告を高市早苗首相に提出した。検査で税金の無駄遣いを指摘されたり、改善を求められたりしたのは全体で319件、総額で約540億8千万円に上った。

 中小企業支援や医療福祉分野などの補助金の不正受給が目立ち、積み立てられた資金の未使用なども多い。最も金額が大きかったのは、東日本大震災で被災した中小企業が金融機関から受ける融資の債務保証に充てる基金で、24年度末の残高約319億円のうち、約203億円は使用される見込みが低いと指摘された。

 新型コロナウイルス関連事業の不適正支出などに調査の重点が置かれた前年度より約100億円減ったが、税金の無駄遣いが後を絶たない。各省庁は各事業を精査し、予算の効果的、効率的な執行に徹しなければならない。

 事業の委託費や補助金を受ける企業などが、人件費を水増ししたり、補助対象とならない経費を含めたりして、不正に受給した事案も多い。事業者側の悪質性は看過できないが、国や自治体の審査の緩さにも大きな問題がある。より厳正に審査する体制を整え、再発防止に注力する必要がある。

 今回は国民生活の安全性確保に検査の重点が置かれた。その中で浮き彫りになったのは、インフラなどの防災対策の遅れだ。このうち東日本高速道路など3社が管理する土砂災害の警戒区域にある高速道路では、斜面崩壊や土石流の発生が懸念される危険箇所が457カ所あることが判明した。

 老朽化した農業用ため池の貯水機能を廃止する工事では、設計不備で雨水を安全に排水できない恐れが指摘された。橋梁(きょうりょう)などの耐震性の不備も相次いで判明した。

 各地で地震や豪雨、洪水などの自然災害が頻発し、甚大な被害を被っている。被害に見舞われる前に備えを強化することは減災などにつながり、復旧費用の軽減も期待できる。こうした住民の安全につながる取り組みは、適正かつ迅速に進めてほしい。

 高市首相は「責任ある積極財政」を掲げている。ただ国債や借入金などの国の借金が1300兆円を超えるなか、際限なく巨額の予算を投じる余裕はない。物価高対策などを盛り込む今後の補正予算案編成でも各事業を吟味し、無駄を省くことを求めたい。

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