相手国だけでなく、自国の経済にも深刻な影響をもたらす愚策であり、撤回すべきだ。
トランプ米大統領が貿易相手国の関税率と同水準の関税を課すとして相互関税の発動を発表した。日本には24%を課す。演説で巨額の貿易赤字の現状を「われわれの生活を脅かす国家非常事態」と強調し、関税措置により「米国の黄金時代になる」と述べた。
相互関税は全貿易相手国・地域に10%、中国に34%、EUには20%を課す。国内産業を守る保護主義的な考えに基づき、関税を一方的に課すことは、米国が主導し、国際経済の発展に寄与してきた自由貿易の理念に反する。既に報復措置を検討する国もある。世界経済の分断を招きかねない状況だ。
米政権は日本に24%を課す根拠として、日本が関税以外の規制を含めると、実質的に46%の関税をかけているとした。トランプ氏は演説で「日本はコメに700%の関税を課している」とも述べた。しかし米国側が示している数字は実態とかけ離れており、このまま受け入れるわけにはいかない。
石破茂首相は「極めて残念で、不本意に思う」と語った。製造業だけでなく、国内経済全体が危機に直面する恐れがある。製造業が多い本県の経済活動や雇用への影響も予断を許さない。日本政府は各国と連携し、不当な関税の見直しを強く求める必要がある。
米国の貿易赤字はドル高や国内総生産(GDP)の7割を占める旺盛な個人消費に起因している。消費財は輸入に支えられ、輸入規模が拡大している。インフレの長期化で生産コストが上昇し、国内の製造業などの競争力低下で輸出が伸びていないことも一因だ。
関税措置で米国では輸入品価格が上昇し、個人消費の停滞が懸念されている。インフレが加速し、さらに国内産業の競争力が低下する可能性もある。相手国に貿易赤字の責任を押し付けるのではなく、国内経済の根本的な課題を解決することに注力すべきだ。
米政権はきのう、輸入自動車への25%の追加関税を発動した。自動車は日本の基幹産業であり、対米輸出額の約3割を占める。自動車は裾野の広い産業で国内のサプライチェーン(供給網)への影響は計り知れない。
米国は、自国メーカーの日本市場参入を阻む安全基準の緩和などを求めている。自国のルールを適用させ、輸出拡大を目指す考え方自体が誤りだ。世界市場での競争力を高めるため、自国メーカーに技術革新を促すことこそ「米国の黄金時代」への近道ではないか。