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【4月5日付社説】韓国の尹大統領罷免/混乱脱却と融和の第一歩に

2025/04/05 08:10

 韓国の憲法裁判所が、昨年12月の「非常戒厳」宣言を巡り国会に弾劾訴追された尹錫悦(ユンソンニョル)大統領を罷免する決定を言い渡した。裁判所の決定により尹氏は即時失職し、60日以内に次期大統領選が行われることになった。

 憲法裁判所は、尹氏の戒厳令について「民主主義を否定し、憲法を無視した」とし、違法性が重大との観点から罷免を判断した。国会で弾劾訴追を主導した革新系野党、尹氏に近い保守系与党の双方が判断を受け止める見解を示した。しかし、両者やその支持者はこれまで弾劾を巡り激しく意見を戦わせており、国民の分断がさらに進んでいくことも懸念される。

 東アジアは、北朝鮮が挑発的な行動を繰り返し、ウクライナ侵攻でロシアと急接近するなど情勢が変化している。韓国は、民主主義などの価値観を共有する隣国で、尹氏弾劾に伴う韓国の外交的空白は日本の安全保障にマイナスだった。韓国の与野党には、新大統領の選出を通じて国民融和を図り、地域の安定を担う一員として国際社会に復帰することを求めたい。

 尹氏は在任中、元徴用工訴訟問題などで冷え込んでいた日韓関係の正常化に尽力し、11年以上途絶えていた首脳が相互訪問する「シャトル外交」を再開した。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出についても、安全性を担保した国際原子力機関の報告書を巡り「検証結果を信頼している」と述べるなど、冷静な判断を下していた。

 日韓両国の関係は、歴史認識や政治情勢などが複雑に影響し一進一退の状況が続いてきた。一方で、観光客の往来や文化面などの民間レベルの交流は継続して進められてきた。今年は日韓国交正常化から60年の節目に当たる。日韓両政府には、政治的対立で尹氏が主導してきた関係改善の流れを翻すことなく、政府間の成熟した関係構築を目指してほしい。

 尹氏の戒厳令の是非については一定の結論が出されたが、その後の混乱は韓国の社会秩序に傷を与えたままだ。尹氏は弾劾訴追された後も支持者に結束を訴え、暴徒化した一部が尹氏の逮捕状を発付した裁判所を襲撃する事態を招いた。中央選挙管理委員会に軍を派遣した理由は、昨年春の総選挙が不正選挙だったと主張していた。

 司法や選挙制度に根拠のない疑いを持ち、暴力や不適正な方法で状況の打開を図ることは許されない。韓国政府は戒厳令発令に至るプロセスやその後の国内の混乱などを十分に検証し、権力の暴走や社会秩序を破壊する動きを防ぐ対策を講じていくことも重要だ。

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