政府の作業部会が、南海トラフ巨大地震が発生した場合の新たな被害想定を発表した。地震と津波で主に東海から九州沖縄にかけ最大で29万8千人が死亡、経済被害額は292兆円に上る試算だ。少しでも被害を減らす対策を進めていかなければならない。
巨大地震を巡る前回の被害想定は2012年に出され、死者数を最大で32万3千人、経済被害額を237兆円と推計した。政府は想定を受け、建物の耐震化や地震を感じ自動的に切れて火災を防ぐブレーカーの導入などの対策を重層的に講じる計画をまとめ、死者数をおおむね8割減少させる目標を掲げていた。
今回は、前回の想定から10年以上が経過したことを受けた見直しとなった。最新の地形データなどから津波の浸水域を精査したところ、深さ30センチ以上の浸水被害を受けるエリアが3割増えた。このため、津波堤防の建設などのこれまでの成果を盛り込んでも、最大死者数は前回の被害想定から1割の減少にとどまった。
想定される被害は衝撃的な数字だが、大地震の発生後10分で避難を始めた場合、死者数の多くを占める津波の犠牲者は約21万5千人から約7万3千人に減らすことができる試算も示した。政府は自治体や民間団体などと連携し、迅速な避難の周知や高台への避難路の整備を進め、津波からの逃げ遅れを防ぐことが重要だ。
政府は巨大地震での迅速な災害対応を実現するため、事前に被災が想定される10県を支援する「応援自治体」を決めている。本県は、愛知県で甚大な被害が出た場合、応援側の中心となり職員派遣などに対応する役割を担う。近く愛知県と、具体的な支援に向けた協議が行われる見通しだ。
本県からの派遣職員は、災害対応全般を助言するほか、避難所運営などの業務を支援する。本県は東京電力福島第1原発事故で、長期かつ広域的な住民避難を経験した。県には、地域のつながりを維持した形の避難や被災者の健康状態の見回りなど、災害関連死を減らすための教訓を愛知県に伝え、有事の被災者支援につなげることが求められる。
巨大地震では、地震発生から1時間半後に、本県沿岸部に最大で4メートルの津波が到達することが予想されている。県は、現在の堤防などの設備で大きな被害は出ないとみているが、油断は禁物だ。県は河川への遡上(そじょう)なども含め沿岸部への津波の影響を再検討し、漁業施設などに被害が出ないための備えを固めておくことが必要だ。