民主主義の根幹である公正な選挙を担保するため、社会の変化に応じた不断の見直しが必要だ。
選挙ポスターに品位保持規定を新設する改正公選法が成立した。他人や他の政党の名誉を傷つけ、品位を損なう内容をポスターに記載してはならないと定め、候補者氏名の明記を義務付けた。ポスタ
ーを使い特定商品を宣伝した場合は100万円以下の罰金を科す。
ポスター規制は昨年7月の都知事選で、同一のポスターが選挙掲示板に多数張られた問題を受けた対応だ。都知事選では、選挙と全く関係ない写真や文言が入ったポスターが掲示された。法改正の議論では、与野党の一部議員から憲法21条の「表現の自由」を侵害しかねないとの指摘も出されたが、選挙の品位や信頼を損ねるものであり、規制は当然の対応だ。
昨年の兵庫県知事選では政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首が、斎藤元彦知事を応援する目的で立候補し、波紋を広げた。しかし今回の改正公選法では、他候補の当選目的で立候補する「2馬力」行為について具体的な対策は見送られた。引き続き検討して「必要な措置」を講じると付則に明記された。
「2馬力」行為はビラやポスタ
ー、選挙カーなどで公選法上の「選挙運動の数量制限」に抵触する恐れがある。ただ、候補者の活動や発言を制限するとの懸念から、規制強化に慎重な意見が多い。
現状では資金力のある個人や団体が1人の候補者を当選させるため、複数人を立候補させ、同じ名前を連呼するなどの活動を行うことができる。立候補の自由は保障されるべきだが、候補者間の公平性を損なう行為は看過できない。与野党は検討を急ぎ、具体的な対策を打ち出す必要がある。
交流サイト(SNS)上の偽情報や誹謗(ひぼう)中傷の拡散や、営利目的の投稿などへの対応も急務だ。対立候補をおとしめるような投稿、閲覧や再生の回数を増やすための過激な情報が散見される。
最近は選挙カーを使った遊説などを行わず、SNSでの情報発信に専念する候補者もいる。有権者にとっても、候補者の政見や人柄を知る上で有効なツールだ。
実効性の確保が課題となるが、選挙の目的から逸脱した行為を禁じたり、SNSの運営事業者に、不適切な投稿の削除を求めたりすることは検討に値するだろう。今後も現行制度の盲点を突いた悪質な行為が想定される。国会は表現の自由を最大限尊重しながら、デジタル社会に対応したルール作りのための議論を重ねるべきだ。