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【4月12日付社説】農業の温暖化対策/新品種の導入で安定生産を

2025/04/12 08:05

 県は本年度から、地球温暖化や異常気象に対応した農作物の生産技術開発に本腰を入れる。急激な気候変化に対し、従来の対策だけでは十分な効果が出ない現状を踏まえた取り組みとなる。集中的に研究を進め、着実に成果へ結び付けてもらいたい。

 県内の生産現場で課題になっているのが、コメの1等米比率の低下だ。近年は9割超で推移していたが、2023年産米は高温で米粒が白く濁り8割弱まで落ち込んだ。24年産米は水管理などを工夫したものの、9割弱までの回復にとどまった。主力品種のコシヒカリが実る時期に、気温が下がらないことが原因とみられている。

 比率の低下は他県でも確認されており、農林水産省は高温に強い品種への転換が効果的な対策の一つとする。本県の研究機関では現在、「つや姫」などよりも強い高温耐性が見込まれる有望な品種の開発が進んでいる。県は農業団体などとの連携を密にし、県オリジナルの高温耐性品種の生産現場への導入を急ぐ必要がある。

 キュウリやトマトの園芸作物ではビニールハウスの中が過度に高温化し、花が落ちてしまう事例が報告されている。果樹では、リンゴの色づきが悪くなり、市場価値が下がることがある。モモの主力品種「あかつき」は、出荷時期が8月の「お盆需要」に重なっていたが、生育が早まり6~7月の出荷になるなどの影響が出ている。

 県は、屋根に熱の逃げる道を設けたビニールハウスの導入など、東北より高温化の影響が大きい西日本で行われている技術の普及を検討している。生産者への丁寧な指導を通じて、確実な定着を支援してほしい。

 ただ、高温の傾向は今後も続いていくとみられる。新たな栽培技術の導入に加え、気温上昇により本県が新たな生産適地となる作物や品種への転換についても検討していくことが重要だ。

 気候の温暖化で、農作物に被害を与える病害虫の生息範囲が変化している。コメを食害するクモヘリカメムシは、いわき市周辺が北限だったが、浜通りの北部や中通りに生息域を拡大している。そのほかのカメムシも、以前に比べ個体数の増加が認められている。

 本県でどのような病害虫が増えていくのかを把握することは、安定した営農計画を立てる上で欠かせない要素になる。県には、生産者が効果的な病害虫対策を先手先手で講じることができる環境を整えるためにも、考えられるリスクを網羅した精度の高い影響予測をまとめるよう求めたい。

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