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【4月16日付社説】震災遺構/保存と活用促す制度創設を

2025/04/16 08:05

 東日本大震災の被害を伝える「震災遺構」の利活用や保存に取り組み、記憶や教訓を後世に引き継いでいくことが重要だ。

 震災遺構とは、地震や津波などの被害の大きさや影響が分かるよう保存した建物などを指す。東日本大震災を巡っては、岩手、宮城両県に複数整備されており、本県では浪江町の請戸地区にある「請戸小」が知られている。

 請戸小は太平洋から約300メートルの距離にあり、震災発生時は児童82人が残っていた。教職員と児童は学校から約1・5キロ離れた大平山に逃げて難を逃れたが、学校には津波が直撃し大きな被害を受けた。津波から避難することの大切さなどを伝えるため、町が2021年10月に震災遺構として一般公開を始め、これまでに21万人以上が訪れている。

 「学校に残る爪痕から津波の恐ろしさが分かった」「児童がどんな気持ちで逃げたのか想像した」との感想が寄せられるなど、震災遺構には来館者に五感を使い災害を自分の身に引き寄せて考えさせる力がある。県内の教育機関などには、震災後に生まれた世代を中心に来館を促し、防災意識の向上などにつなげてもらいたい。

 双葉町の旧双葉南小には、今も震災当時の児童のランドセルなどが残されており、原発事故による避難が地域住民の日常を急激に変えてしまったことを物語っている。町は校舎をそのまま保存する方針だが、公開については内部で議論を進めている。大熊町でも、被災当時の姿をとどめる旧熊町小の今後を考える検討を始めた。

 地震や津波を巡る震災遺構は各地にあるが、本県に特有な原発事故の影響を伝えることができる被災建造物の保存、一般公開についてはまだ例がない。自治体にとって、建物の耐震化などの来場者の安全を確保するための初期投資は大きな負担となる。

 津波に関わる震災遺構の保存には、復興庁が復興交付金を使って支援した経緯がある。原発事故の被害を遺構として残すことは、事故を再び起こさないための戒めになるだろう。国や県には、原発事故を巡る震災遺構の保存と運用が進むよう、支援の枠組みを創設することを求めたい。

 県内ではこのほか、浪江町で「大堀相馬焼 松永窯」の旧店舗を震災遺構とする取り組みが民間ベースで進んでいる。県や市町村には、個人や団体の動きとも連携し、復興で地域の風景が大きく変わる中でも、震災の実相を伝える建物を震災遺構に位置付けて保存する視点を大事にしてほしい。

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