児童虐待が発生したときに迅速、適切に対応できる体制の構築と、虐待そのものを減らすための環境整備を並行して進めていくことが求められる。
全国の児童相談所による2023年度の虐待相談対応件数が過去最多の22万5509件に上った。暴言などで心を傷つける心理的虐待が全体の6割を占め、その半数以上が子どもの前で家族に暴力を振るう「面前DV(ドメスティックバイオレンス)」だった。本県は過去最多だった前年度から約350件減の1908件で、このうち7割を心理的虐待が占めた。
児相に通告される心理的虐待は、警察が暴行などの通報で現場に駆けつけ、そこに子どもが居合わせていたことから面前DVとみなしたものが多い。身体的な暴力がなくても、子どもの前で親同士が激しいけんかをしてしまうことはあるだろう。こうしたケースも心理的虐待に当たる。
子どもは人への暴力を見ることでストレスやトラウマ(心的外傷)が生じて日常生活や成長、対人関係に影響が出るとの指摘がある。子どもへの影響も含め、暴力は決して許されない行為だ。
子どもへの直接的な暴力を含めた児童虐待の背景にあるのが、核家族化が進み、地域の人間関係が希薄になったことによる子育て世帯の孤立と、貧困の問題だ。保護者が経済的に切迫するなかで、頼る親族や相談先が身近にいないことなどから、いらいらした気持ちの矛先が子どもに向いてしまうことが指摘されている。
こども家庭庁などは相談窓口の拡充に力を入れているものの、救済が必要となった段階で手を差し伸べるのでは対症療法にとどまってしまう。重要なのは子育て世帯を孤立や貧困に陥らせないことだ。政府には虐待の分析などを基に、子育て世帯が虐待に至らずに済む社会の構築に努めるべきだ。
児相では虐待事案に対応する児童福祉司などの多忙化などで、必要な職員の確保・育成が難しくなっている。児童福祉法の改正で子育て支援を一元的に担う「こども家庭センター」の設置が努力義務となったが、県内で設置済みの市町村は半数超にとどまっている。
こども家庭庁はこうした課題の解消に向けて、本年度予算で児相職員の働く環境の改善や、こども家庭センター職員の専門性を高めるための研修の充実を図る事業への助成を拡充している。県や市町村は、国の支援を活用しつつ、虐待の危機に十分な対応ができるよう、体制の充実と強化を進めなければならない。