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【4月23日付社説】花粉の少ないスギ/植え替えで健康と林業守れ

2025/04/23 07:55

 花粉症は、国民の4割が苦しんでいるとされる社会課題だ。国は対策の一つとして、花粉の発生源のスギ人工林を伐採し、花粉飛散の少ない品種へ植え替えることを進めている。県内でも着実な植え替えに取り組み、花粉症の減少につなげていくことが重要だ。

 国内では、戦後の木材需要に対応するためスギの人工造林が行われた。その後、成長しても伐採されないスギから花粉が出て、花粉症患者の増加につながったとされる。国は2023年に対策をまとめ、10年で花粉を出すスギ人工林を2割減らし、少花粉スギへの植え替えなどを通じ30年後の花粉発生量を半減する目標を掲げた。

 本県のスギ人工林の面積は全国6位の約13万3500ヘクタールだ。国が集中して伐採と植え替えを進めるとした民有林の「重点区域」も約1万7千ヘクタールに及ぶ。ただ、伐採費用の負担などから、取り組みはあまり進んでいない。県には、各地の森林組合と連携し、所有者に花粉症対策での伐採費用を補助する国の事業の活用を促すなどして、対応を加速することを求めたい。

 スギの苗は原則、県が種を確保して民間が育成する仕組みで、植え替えには1ヘクタールで2千~2500本を使うとされる。県内の苗の生産量は年間約100万本だが、少花粉スギは中、浜通りにしか種を採取する施設がなかったため、このうちの約60万本にとどまる。重点区域の植え替えには3千万本以上が必要で、増産が課題となる。

 県によれば、会津地方の林業施設で来秋から寒冷地用の少花粉スギの種を供給できるようになるという。民間でも、認可を受けた南相馬市などの施設で種を採る環境が整う予定だ。県は、種の供給増加を契機に、将来の本格的な植え替えに対応できるような少花粉スギの生産体制を確立してほしい。

 重点区域の林は、スギが木材として利活用できるまで育っている場合が多く、所有者にとっては伐採で利点があるかどうかが手を入れる判断材料になる。そのため、新たな木材需要を喚起するなど流通で一定の収益を確保できるような対策を講じないと、伐採自体が進まないとの指摘がある。

 林業の根幹は、木材を切り、使い、植えるという再造林で経済を動かすことにある。ただ、本県は原発事故後、住民避難で管理できなくなった森林を保全するための間伐などに集中して取り組む状況が続いてきた。スギの植え替えを大きく動かすためにも、各地の実情を踏まえながら、県は再造林による林業再生を改めて推進する時期に来ているのではないか。

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