熱中症は入念な対策で防ぐことができるとされる。職場全体で警戒心を高め、命を守る取り組みを推進していくことが肝心だ。
毎年のように災害級の暑さが襲うなか、従業員の熱中症対策を罰則付きで、事業者に義務付ける改正労働安全衛生規則が来月1日に施行される。
厚生労働省によると、2024年の職場での熱中症による死傷者は1195人で、このうち30人が亡くなった。死者が30人を上回るのは3年連続だ。製造業や建設業、運送業、警備業などで死傷者が多い傾向にある。県内では昨年、熱中症の疑いで救急搬送された約1300人のうち、工場や農作業などの仕事場から搬送された人は約190人に上っている。
厚労省による職場での死亡事例分析では、発見の遅れや異常時の対応の不備が目立つという。熱中症対策の義務化は、初期症状の早期発見や重症化を防ぐための対応を促すことが狙いだ。職場での熱中症は死亡災害になるケースがほかの災害の約5~6倍だ。国による対策強化は必然の流れだろう。
暑さ指数が28以上または気温31度以上の環境下で、連続1時間以上か1日4時間超の作業を実施する際、事業者に「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」が義務付けられる。熱中症の自覚症状や、疑いのある人が生じた場合に報告する連絡先や担当者、医師の処置や診察など症状の悪化防止のための手順を定め、作業に携わる人に周知しなければならない。
事業者が対策を怠った場合、拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性がある。業種を問わず、各企業は職場環境の課題を洗い出し、従業員らの命や健康を守るための必要な備えを整えていくことが求められる。
熱中症は強い日差しにさらされる屋外だけでなく、空調の効いた屋内でも発症するケースが多い。喉が渇いたと感じなくとも、小まめに水分や塩分を補給するなど予防に努めたい。水分補給をする時間を職場で設定し、同僚に呼びかけることも有効だろう。
国や自治体などは、どのような労働環境下でも起きる熱中症の危険性や、日常から実践できる具体的な対策を企業に周知し、取り組みを広げてもらいたい。
熱中症は高齢者や基礎疾患がある人ほど重症化のリスクが高い。最近は労働者の高齢化も進んでいる。こうした人が多い職場はきめ細やかな対策が必要になる。従業員も手足がつる、めまいがするなどの異常を感じた時は、すぐ周囲の人に申し出ることが大切だ。