インドとパキスタンはそれぞれ約170発の核弾頭を保有しているとみられ、「南アジアの火薬庫」と呼ばれている。戦闘が激化すれば、核兵器の使用を含めて、不測の事態にもつながりかねない。両国は即時に攻撃をやめ、緊張緩和に向けて対話の糸口を探る必要がある。
インド軍がパキスタン領内をミサイルで空爆した。パキスタン軍によると、31人が死亡、57人が負傷した。反撃を行い、インドの戦闘機5機を撃墜したとしている。パキスタン政府は主権を侵害されたとして、報復を辞さない姿勢を示している。
両国は1947年に英領から分離独立した際、両国に接するカシミール地方を統治するヒンズー教徒の藩王がインド帰属に合意した。しかし、住民の多数がイスラム教徒だったためイスラム教国であるパキスタンとの領有権争いとなり、過去3度の戦争を含め、武力衝突を繰り返してきた。軍事行動が行われたのは、2019年にインド軍がイスラム過激派の拠点を攻撃して以来だ。
インド政府は、攻撃についてカシミール地方のインド側で4月に発生したテロ行為への報復と説明し、軍施設などは標的にしていないと強調した。一方、パキスタン政府はテロへの関与を否定した上で、モスク(イスラム教礼拝所)や診療所など民間施設が攻撃されたとしている。
いずれの言い分も攻撃や報復を正当化するものではない。他国への軍事行動は人命を危険にさらす行為であり、強い非難に値する。
心配されるのは国連や大国が調停機能を発揮できない状況が続いていることだ。インドと同地方以外の国境地帯でも領有権を巡る紛争があり、パキスタン寄りとされる中国がカシミール地方の一部を実効支配していることも問題を複雑にしている。
02年に両国間の緊張が高まった際や、19年の戦闘では、米国が仲介役を務め、収束につなげた経緯がある。今回の戦闘についても、トランプ大統領が「今すぐやめてほしい。何かできることがあれば協力する」と述べている。ただ、現段階ではそれ以上の積極的な動きがないのが実情だ。
核兵器を持つ国同士の戦闘は、当事国間だけの問題とは言えない。国連や米国をはじめとする国際社会が停戦を強く求めていくことが不可欠だ。
双方と友好関係のある日本にも、両国に強く自制と対話を促すことで、これ以上の事態悪化を防ぐ努力が求められる。