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【5月15日付社説】米中関税引き下げ/世界経済の安定につなげよ

2025/05/15 08:40

 不毛な貿易摩擦に一刻も早く終止符を打ち、世界経済の安定化につなげるのが双方の使命だ。

 米中両国が互いに課していた高関税の引き下げがきのう実施された。閣僚級協議での合意に基づきそれぞれ115%引き下げた。

 トランプ米政権が4月に発動した「相互関税」を発端にした米中による高関税応酬は、株価急落など世界経済を大きく揺るがしている。極めて深刻な事態を招きかねない状況で、双方が歩み寄り合意にこぎ着けたことは評価できる。

 ただ米国が全ての国・地域に課した一律10%の追加関税と中国側の10%の報復関税、米国が合成麻薬流入を理由に発動した追加関税や、中国が報復として発動した農産物などに対する関税も残っている。トランプ大統領は中国との協議前に「中国への関税は80%が妥当と思える」と発言している。再び高関税に踏み切る恐れはあり、予断を許さない。

 両国は協議の枠組みを設置し、話し合いを続ける。世界1、2位の経済大国としての影響力の大きさを自覚し、関税引き下げや撤廃に向けて冷静に議論してほしい。

 両国の高関税政策は、トランプ氏が巨額の対中貿易赤字の解消を訴え、一方的に仕掛けたことがきっかけだ。中国側も強硬に報復関税を打ち出した。米国は家電製品や日用品などを中国から大量に輸入しており、物価高の加速などへの懸念が米国内で広がっていた。

 相手国に一方的に関税を課すトランプ政権の手法は、自由貿易体制を踏みにじるものだ。中国側の対抗は予想されたとはいえ、100%超の報復措置は米国側も誤算だったはずだ。トランプ氏は、自国内にも深刻な打撃を与える政策は即刻改めるべきだ。

 強硬に報復した中国にも問題がある。対米輸出の大幅な減少につながる対抗措置は、冷え込んでいる国内経済をさらに悪化させる恐れがあった。振り上げた拳を下ろす機会を探っていたともいえる。

 両国間の緊張が緩和されたとはいえ、中国市場の閉鎖性、安値での輸出を可能としている国有企業への不透明な補助金などは、米国だけが批判していることではない。中国側もこうした根本的な課題に向き合い、国際社会に受け入れられる改善を図る必要がある。

 米中交渉に進展はあったものの日米の関税交渉は楽観できない。これまでの交渉で米国側は一律10%の相互関税と、自動車や鉄鋼などへの追加関税は撤廃を拒否している。日本政府は他国の交渉状況を注視し、完全撤廃を求めて粘り強く交渉しなければならない。

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