認知症の高齢者や障害がある人に代わり金銭管理などを行う「日常生活自立支援事業」(あんしんサポート)の利用者が近年、増加傾向にある。一方、支援を担う社会福祉協議会は人手不足の状況が続いており、事業を安定して継続できる環境づくりが重要だ。
支援事業は、認知症などで生活上の判断に不安がある人を対象にしている。社協と契約を結ぶと、社協の職員や生活支援員が金融機関で現金の出し入れを代行するなどして生活を支える。昨年度の県内の利用者は約700人で、10年前の2倍近くに上るが、人件費の不足などから支援員の実働人数はほぼ横ばいで推移している。
自立支援事業には、社協職員が関わることで必要な福祉サービスの利用を促すなど、孤立しがちな利用者を社会につなぐ役割がある。支援の手が回らなければ、新たにサポートが必要になる人への対応の遅れにもつながる。制度運営に関わる国や県には、社協が必要な人員を確保できるよう、財政面での手厚い配慮を求めたい。
他県では、事業を通じて利用者らの公共料金の未納が大幅に改善されたことから、市町村が独自に社協スタッフの人件費を負担するようになった事例がある。早期の自立支援の実施は、誰でも暮らしやすい地域づくりの基礎になる。本県でも、市町村による社協の人件費負担を検討すべきだろう。
支援事業は、自分の意思で社協と契約を結ぶことができる人を対象とする。しかし実際には、判断能力が低く「成年後見制度」の適用が必要な人も含まれる。社協職員らが身近な存在として関わるため、相談内容が業務の範囲を超える場合もある。県社協によると、これら複合的な要因が相まって現場負担が重くなっているという。
事業の利用者は、今後も増えることが見込まれる。県や市町村には、生活保護に関わるケースワーカーや成年後見制度を担う関係者が協議する場を設けて役割分担を明確にし、社協の業務負担の軽減を図ってもらいたい。
人件費不足や負担増の問題に加え、利用者の元に通う生活支援員のなり手不足も顕在化している。県や市町村は、福祉業務の経験がある人材を社協に紹介することも心がけてほしい。
支援事業は主に認知症の人の利用を想定した制度として始まったが、知的障害や精神障害のある人の占める割合が増えている。利用者によるハラスメントなど、新たな課題もある。事業の担い手を社協以外に拡大するなど、制度の改革を議論する時期に来ている。