金融機関が自ら口座を偽造するなどした疑惑が事実であれば、地域の信頼を裏切る犯罪と言うほかない。
いわき信用組合(いわき市)が預金者名義の口座を無断で開設し、その口座へ融資を行う形で資金を流出させていた疑いが浮上している。この資金は、経営難の取引先への融資が不良債権化したのを隠すため、返済の肩代わりに充てられていたとみられる。不正は10年以上続いていたという。
地裁いわき支部が組合員からの申し立てを受け、架空融資の証拠保全の手続きを取った。関係者によると、架空融資のリストには90口弱の融資先と、17億円超の残高が記されていたという。架空融資に使われた疑いのある印鑑約90本も証拠として保全した。
同信組は昨年11月に取引先への迂回(うかい)融資が発覚した際に、元会長ら旧経営陣が主導したと説明している。金融機関の不祥事の多くは、職員による横領や窃盗だ。口座偽造が迂回融資の一環であれば、組織ぐるみでそれを行ったことになり、それらの不正とはまったく次元が異なる。極めて悪質であり、許されるものではない。
迂回融資の発覚で設けられた第三者委員会は今週、調査結果を公表する予定だ。同信組は調査に対し一時、虚偽の説明をしていた疑いがあるという。発覚当初には口座偽造を明らかにしていなかったことを含め、同信組が事実解明の姿勢に欠けるのは明らかだ。組合は第三者委の調査内容に限定することなく、不正融資の全容や虚偽説明の疑いについて、つまびらかに説明すべきだ。
加藤勝信金融担当相はこの疑惑について、「法令に基づき厳正に対応する」と述べた。東日本大震災の被災地支援の一環として公的資金を注入した信組の疑惑に「本当に大変遺憾だ」とした。金融庁は第三者委の調査結果を踏まえ、対応を本格化させるとしている。
県内の金融機関の状況に詳しい関係者は「事実であれば幼稚で、金融機関のやることではない」と非難する。金融庁の対応については「前例がなく、予測しにくいが、業務停止命令を含め、相当重いものになるはずだ」と話す。
疑惑を巡っては、組合員が私文書偽造や銀行法違反などの容疑で元会長を、地検いわき支部に告発しており、捜査機関の動きも注目される。
これらの動きに、同信組がどう対応していくのかが今後の焦点だ。真摯(しんし)な取り組みが徹底されない限り、組織再生に目を向けるのは時期尚早だ。