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【5月27日付社説】災害医療の充実/知見生かした仕組み構築を

2025/05/27 08:05

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の経験は、さまざまな知見を残した。これを今後の災害発生時に生かすためには、平時の取り組みこそが重要となる。

 東北医師会連合会が「救急・災害医療担当理事連絡協議会」を発足させた。各医師会が連携して、災害後の医療支援や被災者の健康管理の在り方などについて日頃から情報交換し、所属医師の対応力の強化を図る。

 連携強化を図る背景にあるのは、能登半島地震で支援の医師らが現地に到着したものの、指揮系統がはっきりせず、医療行為に関わる機会が少なかったケースがあるなど、震災の経験が十分に生かされていないのが浮き彫りとなったことだ。連絡協設立を提唱した本県医師会の石塚尋朗会長は「震災や原発事故を経験した地方として、次の災害についてさまざまな状況を想定し、準備を進めていくことが必要だ」と話す。

 震災や、ほかの災害の支援を経験した医師などの得たノウハウやアイデアは個々人にとどめてしまえば、役に立つ場面がどうしても限られてしまう。震災から14年が経過して、当時を経験した医師などの高齢化が進んでおり、知見そのものの風化も懸念されている。医師などの持つ知見を共有し、組織的な対応の中に組み入れていくことで、災害時の医療支援をより効果的に行えるようにしていくことが重要だ。

 連絡協は、日本医師会の災害医療チーム(JMAT)に参加する医師などの強化や人員の確保を目指すとしている。JMATは、医師や看護師、薬剤師などによるチームが被災地に入って、数カ月単位で医療機関の支援などを行う枠組みだ。

 連絡協は医師や薬剤師、事務局担当者などを交えた分科会を集中的に開き、東北で災害が発生した場合の医療支援の指示系統などについて意見交換する。そこで出された意見などを基に、「東北JMAT」と呼ばれるような仕組みにつなげたいという。

 まったく同じ災害はないと言われる。しかし、事前に基本となる対応を決め、そのための人材を確保しておくことは、いかなる災害であっても医療チームが十分な力を発揮する前提となる。JMATにも適用可能なモデルの構築を期待したい。

 被災地でJMATなどの医療チームが機能するためには、行政など医療機関以外の協力が不可欠だ。連絡協には行政などとの円滑な連携の在り方についても検討を進めてほしい。

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