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【6月3日付社説】ガザ地上侵攻/人道危機に無策でいいのか

2025/06/03 08:10

 国際社会が非人道的な攻撃を直ちにやめさせ、恒久停戦への取り組みを加速しなければならない。

 イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの地上侵攻で、多くの市民の命が奪われている。地上部隊の支援で空爆も激化しており、ガザ保健当局によると、2023年10月の戦闘開始以降のガザ側死者は5万4000人を超えた。

 市民を標的にしたかのような行為も相次いでいる。1日にはガザ最南部の物資供給拠点の周辺で攻撃があり、物資を求め殺到していた市民ら30人以上が死亡した。物資配給は米国とイスラエルが主導し設立した財団が実施しており、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は「配給が死のわなに化している」と非難した。

 イスラエル軍は、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの壊滅を目指し、地上侵攻の展開に合わせ、ガザ住民を南部などに強制的に退避させている。将来的に住民を北、中、南部の3区域に移住させて管理する計画だ。

 避難を強いた住民を狙い、攻撃するようなことは断じて許されない。そもそも住民に強制的な移住を求めることは国際法違反だ。

 世界食糧計画(WFP)は、ガザの子ども7万人以上が深刻な栄養失調に直面している、と発表した。イスラエルが3月2日に物資搬入を停止してから、栄養失調による死者が50人を超えるという。

 食料や医療品などの支援物資搬入が先日、約2カ月半ぶりに再開されたものの、イスラエルによる攻撃が続き、輸送ルートの安全を確保できず十分に届いていない。

 現地では1日に少なくともトラック500~600台分の支援物資が必要とされている。イスラエルは、支援物資の搬入を妨げるような行為を即刻中止すべきだ。

 肝心の停戦交渉は依然停滞したままだ。これまで仲介役を務めてきた米国は、60日間の停戦とハマスが拘束する人質を解放するなどの新たな停戦案を提示した。要求が反映されているイスラエル側は同意したが、恒久停戦と完全撤退を求めるハマスは「戦闘終結の確約などの要求が盛り込まれていない」と反発している。

 双方の主張の溝は深く、このままでは市民の犠牲が増えるばかりだ。米国は強硬姿勢を崩さないイスラエルに譲歩を求め、早期の停戦にこぎ着けてもらいたい。

 これまでイスラエルを擁護してきた英国や欧州諸国からも批判が強まっている。独自の外交ルートで中東和平に実績のある日本も国際社会に働きかけ、恒久停戦に向け最大限の努力を尽くすべきだ。

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