2度の本県沖地震などで甚大な被害を受けた相馬市の斎春(さいはる)商店は21日、同市尾浜で旅館と海鮮食堂をリニューアルオープンする。建物が大規模半壊し、3年3カ月にわたり休業していた旅館はこだわりの料理や家具をそろえ、「旬海の宿 斎春」として非日常感を味わえる空間に生まれ変わった。「地元松川浦を盛り上げたい」。創業80年の老舗が新たな一歩を踏み出す。
新しい建物は3階建て。1階に海鮮が売りの食堂「食事処 斎春」や宴会場を構え、2、3階に客室全9室を設けた。多くの部屋や大浴場からは景勝地の松川浦を一望できる。朝は潟湖を照らす日の出も拝める。
館内では組子細工の繊細な模様が光を透かし、天童木工(山形県)の椅子やテーブルが高級感を演出する。料理に使う食材は常磐ものが中心。3代目の斎藤智英専務(42)は「新鮮な地魚を堪能してほしい。器や調度品にもとことんこだわった」と胸を張る。
震度6強を観測した2022年3月の本県沖地震で、3階建ての建物は一部の天井や壁が崩れ落ちた。11年の東日本大震災では2階まで津波が押し寄せ、21年2月の本県沖地震でも被災。新型コロナウイルス禍で客足も減った。借金は増える一方だったが、再開を望む常連客の励ましを受け、全面建て替えを決めた。
23年1月、仮設店舗で食堂の営業を再開。「斎春の海鮮丼を早く食べたい」という客の声に応えた。斎藤専務と妻の若女将(おかみ)麻美さんが一緒に全国の名だたる旅館を視察し、理想の宿を完成させた。
松川浦は震災前、海水浴などでにぎわう観光地だったが、原発事故に伴う風評被害で観光客が減少した。斎藤専務は「かつての活気を取り戻したい。地域再興の原動力になり、斎春の新しい歴史を刻んでいく」と意欲を語る。