原発事故をきっかけに、「放射線」という言葉が私たちの暮らしの中で強く意識されるようになりました。福島県では2011年度から、放射線について学ぶ授業が本格的に導入され、小中学校で独自の教材を用いた教育が始まりました。
前回まで見てきたように、広島や長崎では「平和教育」の一環として被爆の記憶を学ぶ授業が中心であり、青森では原子燃料サイクル施設を背景に「科学技術としての理解」が重視されています。それぞれの地域の歴史や立地が、放射線教育のあり方に大きく影響を与えてきました。
こうした中で、島根県松江市では「原子力防災」を柱とした独自の放射線教育が展開されています。市内にある島根原子力発電所に備えるため、地域の小学校では低学年から段階的に、災害時の行動や放射線防護について学ぶ授業が行われています。
たとえば、市内のある小学校では、小学2年生で「もし原発事故が起きて屋内退避の指示が出たらどう行動するか」をテーマに、窓や扉を閉めるといった空気の遮断や、外から戻った際の身支度の整え方など、落ち着いて行動するための基本を学びます。
さらに、小学4年生になると、「安定ヨウ素剤の服用」についての学習も行われます。甲状腺被ばくを防ぐための対策であること、服用のメリットと副作用のリスク、指示は国の判断で出されることなどを、図解資料とともに理解していきます。
福島県の教育が「実際に事故を経験した地域で生活と放射線がどう関わっているか」に重点を置いてきたのに対し、松江市の教育は「将来起こりうる原子力災害への備え」を主眼に据えています。