特例宿泊中の独居男性に緊急時の連絡先を書いた紙を手渡す(右から)吉田さんと杉浦さん=南相馬市小高区 |
東日本大震災、東京電力福島第1原発事故の発生から、11日で3年5カ月となる。今年はお盆の特例宿泊が最長1カ月に延長された。避難先から久しぶりに自宅に戻った住民は、犠牲になった人や先祖に対する墓参など、それぞれの思いを抱きながら過ごしている。南相馬市では、特例宿泊を見守る女性2人の取り組みに密着した。
「暑いので水分を取ってくださいね」「体調はどうですか」。「防犯」と記された真っ赤なキャップをかぶり、オレンジ色のベストを身に着けた女性2人が南相馬市の避難区域を駆け巡る。
2人は同市の杉浦ヨネ子さん(70)と吉田邦子さん(61)。特例宿泊中の独居世帯を一軒一軒訪ね、安否確認をしている。
「同じ境遇だから。宿泊中の事故を防げたら」。2人とも避難を強いられている身だからこそ、古里に戻った住民と思いを共有できる。
同市の仮設住宅では、3月から3カ月連続で独居高齢者の孤独死が発生した。市は特例宿泊に合わせて独居世帯の見守り態勢を強化しようと、2人に「女性パトロール隊員」の委嘱を打診。2人とも市社会福祉協議会の元職員で、長年小高区を中心にデイサービスなどを行ってきた。「土地勘もあるし、地元のためになるなら」。快く引き受けた。
特例宿泊を申請した高齢者と障害者、要介護者のうち、1人で自宅にいる約40人を週に3日、訪問する。2人で乗用車に乗り込み、1日当たり約40キロを走行する。訪問した家々で毎日の食事の内容や体調を確認し、熱中症の対策も呼び掛ける。世間話で盛り上がり、あっという間に時間が過ぎることもある。
小高区に1人で宿泊する男性(74)宅。「じいちゃんは(避難指示が解けたら)戻るのかい」「そればっかりが楽しみだよ」。軒先での何げない会話に、お互いの帰還への願いがのぞく。吉田さんの自宅は原町区の避難区域にあり、小高区の杉浦さん宅は津波で流された。「みんな帰りたい思いは同じ。そのお手伝いができればいい」。2人の力強い思いが、古里の再生を支えている。