人気刑事ドラマだった「西部警察」の福島編ロケが行われたのは1983年3月。バブル経済に向け景気が良くなっていった80年代はドラマ、バラエティーで高視聴率番組が次々と誕生したテレビ黄金時代だ。活気のあった時代の撮影の舞台裏を知りたいと思い、福島編ロケで制作協力した福島放送(KFB)に取材依頼すると、「よく知る人物」を紹介され、郡山市の本社に向かった。
役員会で議論
待っていてくれたのはKFB元社員の河村光伸さん(65)。「ロケ準備から2週間は戦争だった。体力的、精神的に追い詰められた」と語り始めた。
当時27歳だった河村さんはエキストラ集めを担当した。「『無理です』とは絶対言えない。とにかく電話をかけまくり、警官、悪役など人をかき集めた」。当時の同社会津支社長は、会津平安閣(会津若松市)で行った結婚式のシーンで、エキストラ200人をそろえたそうだ。
「実は私もドラマ本編に出ているんだよ」と河村さん。ロケ同行中、監督からいきなり「このジャンパー着て」と言われ、悪役の一人として登場。トイレで五代刑事役の石原良純(59)に殴られ気絶する演技をした。「使えるものは何でも使ったね」
石原プロやスタッフの情熱を肌で感じた河村さん。「テレビドラマというより映画の現場のようだった。コマサ(石原プロの小林正彦専務)の言うことが絶対で、爆破シーンはとにかくこだわった」
福島観光自動車(郡山市)のバスを爆破するシーンでは天井をくりぬいて、炎がきれいに燃え上がるように工夫して撮影している。同社によると、会社のバスを爆破してもいいのか役員会で真剣に議論した末OKしたという。まだ走行できるバスを提供するとは太っ腹な会社だ。
西部警察PART310話「雪の会津山岳決戦!福島・後編」クライマックスの戦闘、爆破シーンは壮絶だった。渡哲也ら大門軍団が数十台の警察車両とともに喜多方市の日中ダム建設現場に向かうが、敵の要塞(ようさい)からのバズーカやミサイルの攻撃で次々と車が炎上。大門軍団が、それをかいくぐって要塞に進入し敵を倒すと、自爆装置が作動し大爆破する。
KFBに残っている当時の社報に小林専務の話として、使用した「花火玉」200個、焼いた車30台と記されている。花火玉を窓際に並べ、部屋中にガソリンをまいて実行された最後の要塞爆破は、まさに芸術作品だったという。
「大爆破した場所はここ」。1月中旬、一面雪景色の日中ダムに向かうと、案内してくれた地元の花見秀一郎さん(65)が、階段状に岩がむき出しになった斜面を指さし教えてくれた。当時、花見さんは日中ダムの建設工事をしていた大成建設の現地社員だった。冬は屋外工事が休みで「スタッフに紛れて一日中撮影を見ていた」と言う。何ともうらやましい話だ。
花見さんによると、日中ダムは岩石や土砂を積み上げるロックフィルダム構造のため、近くの山から石を切り出していた。そこにマルト建設(会津坂下町)が3階建ての要塞を約2週間で建てたという。建設費はなんと約3000万円。同社の佐藤信雄さん(74)は当時の苦労を語る。「きれいに爆破するよう、鉄骨は使わずベニヤ板などで作った。でも中で撮影するから華奢(きゃしゃ)に見えないよう工夫していた。雪で足場が悪くて技術屋は泣いていたね」
大門鍋の原型
日中ダムから車で10分ほどの熱塩温泉山形屋(喜多方市)には俳優陣やスタッフが数日間宿泊した。小林専務の指示で山形屋がロケ現場に食材を運び鍋を振る舞った。大量のニンニクと唐辛子が入った特製豚汁で、寒い会津の冬で体の芯から温まったという。山形屋はその鍋を再現し、昨年から「大門鍋」として夕食メニューに加えると、新聞やテレビで取り上げられた。
山形屋社長の瓜生泰弘さん(64)は再び話題となったことに感謝する。「当時、渡さんとお酒を飲んで『この旅館大丈夫か。しっかりやれよ』と叱咤(しった)激励された」。その言葉を励みに、旅館を大きくし守ってきた瓜生さん。「西部警察のおかげで地域に元気をもらった」
くしくも制作した石原プロモーションが1月16日に解散し、一つの時代が終わった。しかし、熱い男たちのドラマは38年たった今も多くの人の心をつかんで離さない。(一部敬称略、伊東隆裕)
【アクセス】会津縦貫北道路喜多方インターチェンジ(IC)から車で約20分、熱塩温泉山形屋は同ICから約15分。
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【福島放送】「西部警察」福島ロケに先立ち、本社で記者会見を開き、ロケ中は連日ニュースで放送した。会社に問い合わせの電話が約1万回あったとの逸話も残る。ドラマ放送まで特別番組を3本作った。ロケ中に会津若松市で歓迎セレモニーを開くと、約2万人のファンが集まったという。ヘリコプターで渡哲也が会場入りし、大門軍団の特殊車両「スーパーZ」「マシンRS」から舘ひろしらが降り立った。
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【「石原裕次郎 渡哲也 石原プロ社史」】1月解散した石原プロモーション58年間の全記録=写真。約900点の写真と文章、インタビュー、手紙などフルカラー424ページ。映画「黒部の太陽」のヒット、ドラマ「大都会」「西部警察」の成功、石原裕次郎、渡哲也の半生など石原プロ栄光の歴史がつづられている。4180円で発売中。問い合わせは発行元の青志社(電)03・5574・8511