今回は脳卒中の主要危険因子のひとつである高コレステロール血症(脂質異常症)についてお話しします。
コレステロール
コレステロールは、生体内でホルモンの材料になったり、肝臓で消化液の一つである胆汁酸に変換され、食べ物の消化・吸収を助けたり、全身の細胞膜の構成成分になったりと、私たちが生きていく上で非常に大切な役割を担っています。
大きく分けて、肝臓でできたコレステロールを体全体に運搬する役割を担うLDL(悪玉)コレステロールと、動脈壁に蓄積したLDLコレステロールの回収を担うHDL(善玉)コレステロールに分類されますが、これは単なる役割の違いであって、そのものが善い・悪いということではありません。しかし、悪玉コレステロールといったりするのは、LDLコレステロールが脳卒中や心筋梗塞など心血管系の病気を引き起こす原因の動脈硬化の危険因子になっているからです。
脂質異常症と脳卒中
血液の脂質検査は、血液中の中性脂肪(トリグリセライド)、HDLコレステロール、LDLコレステロール、総コレステロールの数値を調べます。基準値から外れた状態を脂質異常症といいます(図1)。
脂質異常症は高血圧、糖尿病などの生活習慣病のひとつで、動脈硬化の促進と関連します。ただ、この基準に当てはまれば、すぐに治療が必要という訳ではありません。血中のLDLコレステロール濃度が高い、また、HDLコレステロール濃度が低いという状態が続くことは、まだ議論はあるものの、脳卒中の発症と関連が深いとされています(図2)。
総コレステロールは、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪から算出されます。中性脂肪は、コレステロールとは別の脂質ですが、悪玉コレステロールとは味方、善玉コレステロールとは敵対関係にあり、やはり動脈硬化を促進させます。
特に脳梗塞のうち、アテローム血栓性脳梗塞は血清総コレステロール値と発症リスクが相関するといわれています。高LDLコレステロール血症の人にHMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)という内服薬を使用すると、脳梗塞やすべての脳卒中への抑制効果が認められるという報告がなされています。
スタチンは日常よく使用されている薬剤で、効果と安全性が確認されています。「脳卒中治療ガイドライン2021」では、特に非心原性脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)の再発予防にはスタチンの積極的な投与が勧められており、LDLコレステロールを100mg/dL以下に管理することが妥当とされています。
その他、最近はnon-HDLコレステロールを検診で測定することができるようになりました。non-HDLコレステロールは「総悪玉」ともいえるものです。血液中にはLDLコレステロールとは別の悪玉が潜んでおり、その別の悪玉を含めたすべての悪玉の量を表すのが、non-HDLコレステロールの値です。
通常、LDLコレステロール以外の悪玉はごくわずかです。しかし、中性脂肪の値が高い人ではその量が増え、動脈硬化にも悪影響を及ぼします。なぜなら、別の悪玉は中性脂肪と一緒になって血液中に存在するからです。したがって、中性脂肪が高い人などの場合は、LDLコレステロールだけではなく、non-HDLコレステロールの値もチェックすることが望ましくなります。
また、LDLコレステロールは空腹時に測らないと正確な値の出ない場合があるのに対し、non-HDLコレステロールは空腹時かどうかに左右されずに測定できることも利点です。
次回も脂質異常症についてお話しします。