作家の内田百閒が東北線や奥羽線をたどって東北を旅したいきさつを「阿房列車」に記している。道中、「何の用事もない」福島市に1泊している。滞在したのには、彼なりの理由があった
▼旅はまず、盛岡を目指すことになった。宵の時間に着くちょうど良い列車があるにはあるが、上野駅発は苦手な朝の時間帯。どうしてもお昼を過ぎてからゆっくりこの列車に乗りたい百閒は一計を案じる。福島駅から乗れば思い通りになることが分かり、前日に福島入りすることになった
▼なんともわがままで気ままな旅ではある。ただ、お目当ての列車は絶対に外せないと引かず、策をひねり出したことには痛快ささえ感じる。それもこれも、列車が毎日、時刻表通りに運行されることで成り立つ
▼おとといの東北新幹線の運転見合わせは、約4万5000人に影響した。台風などの悪天候でダイヤが乱れることはあるものの、今回は、高速走行中に列車の連結が外れるという前代未聞のトラブル。大事故にならず、乗客にけが人がいなかったことが不幸中の幸いだった
▼公共交通機関には私たちの旅の一ページを託しているだけでなく、命を委ねている。そんな当たり前のことに改めて気付かされた。