認知症やその疑いがある高齢者が自宅を出たまま、行方不明になるケースが後を絶たない。福島県内では昨年、144件の届け出があった。大半は無事に発見されるが、中には死亡した状態で発見されることもある。「いつまた家を出ていってしまうのか。24時間不安でたまらない」。家族は心が休まる時がない。
「私が目を離さなければ」。福島市で90代の父親が暮らす50代女性は、昨秋の出来事を悔やむ。父親は昨秋、「実家に帰る」と言って自宅を出たまま、行方が分からなくなった。女性は認知症の両親の世話をするため、関東地方の自宅から父親の家を訪れ、母親の世話をしていた一瞬の出来事。無事に発見できたものの、頭の中は混乱していた。
その後も、父親が自宅を出て行方が分からなくなる日は続いた。「父は腰が悪くてすり足。遠くには行かないだろう」。だが父親は自宅から距離がある山に一人で登り、道に迷ったこともあった。
季節は寒さが厳しい秋から冬。「暗くなる前に見つけないと凍死してしまう」。頭の中は不安ばかり。「人に迷惑をかけたくない」「すぐに見つかるだろう」という心理が働く。父親方と自宅の行き来は3年近く続いている。心身ともに残る疲労。「誰か助けて」。心の中でつぶやく。
介護ヘルパーや警察の力を借り、今は他者との早めの情報共有が発見につながると感じている。「家族だけでは限界がある。地域住民やヘルパーを頼ることも大切だ」
模擬訓練やQRシール
福島県内では、認知症高齢者が行方不明になるケースを防止しようという取り組みが進む。
福島市松川町周辺では12年前から、自宅を出たまま帰れなくなった認知症高齢者への声かけ方法や発見から通報までの流れを住民が学ぶ模擬訓練を実施。LINE(ライン)のグループ機能を利用し、行方不明者が出た際に情報を共有するよう申し合わせた町内会もある。
鏡石町では認知症の高齢者が行方不明になった際に、町内の関係機関や警察にスムーズに捜索を依頼できるネットワーク事業を展開。認知症の人が保護された時に、早期に身元を確認できる「QRコードシール」を交付する自治体も増えている。
声かけには簡潔な言葉
認知症介護指導者で、東北ブロック認知症グループホーム連合会長の蓬田隆子さん(73)は「認知症の症状がある高齢者は興奮状態になると疲れ知らずになり、遠くまで行ってしまうケースもある」と指摘する。
蓬田さんによると、認知症高齢者への声かけのポイントは【表】の通り。
蓬田さんは「日が落ちる前に発見しないと、命に関わる。近隣住民と協力して捜すことが重要になる」と話した。
全国では491人死亡、8割が5キロ圏内
福島県警によると、県内の過去10年間の認知症の行方不明者届の受理件数は【グラフ】の通り。昨年は144件中、5件が死亡した状態で見つかった。
警察庁によると、全国で昨年受理した認知症に関連する行方不明者のうち、死亡者は491人。約8割に当たる382人が5キロ圏内で死亡が確認されている。死亡場所は「河川・河川敷」「用水路・側溝」「山林」が半数以上を占めた。同庁は「これらの場所は人的捜索が困難となる場合も多く、発見の遅延が行方不明者の生命に大きく影響する」としている。