東日本大震災と原発事故をきっかけに、避難所の在り方は大きく見直されました。その議論の中で注目されたのが、国際的な人道支援の指標である「スフィア基準」です。1990年代、アフリカ内戦やルワンダ難民危機などを受け、支援の質を確保するために97年に国際NGOが中心となって策定されました。
この基準は、被災者が人間らしい生活を守るための最低限を示すものです。例えば、1人あたりの居住空間3・5平方メートル以上、トイレは20人に1基、飲料や生活用の水は1人1日15リットル以上と、具体的な数値が並びます。快適さではなく、健康と尊厳を守るための「最低条件」とされています。現在では国連機関や国際NGOが緊急人道支援で広く用いており、国際的な共通基準になっています。
日本の避難所は、こうした基準と比べるとまだ十分とは言えません。震災時の体育館では、狭い環境で過ごさざるを得ず、トイレや水も不足しました。能登半島地震でも、居住空間や水の確保で国際基準には届かない例が報告されています。限られた施設や物資、人員の中で急場をしのぐことが優先される状況では、基準通りに整えることは容易ではありません。
それでも、改善を積み重ねることは欠かせません。スフィア基準は「理想」ではなく「最低限」を示すものです。現実とのギャップを意識しつつ、いかに少しでも近づけていくか。その努力が次の災害で命と生活を守る力となります。