第35回みんゆう県民大賞の芸術文化賞を受賞した郡山市出身で芥川賞作家の鈴木結生(ゆうい)さんは25日、郡山市のけんしん郡山文化センターで講演した。受賞作「ゲーテはすべてを言った」を基に、小説を書く手法や作品にちりばめた仕掛けについて解説し、作品を深く楽しむヒントを来場者に伝えた。
鈴木さんは「小説が生まれるまで」の題で講演し、自身にとっての小説を「記憶と記録の間に立つもの」と説明。「ゲーテ」のリズム(文体)が丸谷才一の小説に由来していると話し「合唱が盛んな郡山の出身者として、自分の小説にも音楽的なリズムがあってほしいと頑張っている」とユーモアを交えて語った。
登場人物の名前の秘密について、音で聞くと自然だが、文字を見ると人物の役割や性格が分かるよう「過剰な意味を持っている」とし、夏目漱石や森鴎外、大江健三郎らの「凝った名付け」を例に挙げながらひもといた。
物語の構造についても触れ、冒頭に出てくるゲーテの二つの言葉に、作品の主題と、物語が「色彩論」をテーマに進むこと、登場人物や章にイメージカラーがあることなどを明かした。
最後に自身の小説の手段と目的は「引用に尽きる」と言及し「引用は小説を文学的な伝統の中に位置付ける行為。私が小説を書くのは、書くものの中にシェークスピアが新たに生き直すからだ、と思いたい。芸術とは、これまであったものを豊かにして次世代に渡す営みだ」と結び、これらの「過去の遺産」の継承について考えて3作目「携帯遺産」を書いたと述べた。
こおりやま文学の森資料館の開館25周年記念文学講演会として開かれ、約200人が来場した。
