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反社勢力に10億円 いわき信組調査報告 金融庁から業務一部停止命令

2025/11/01 07:50

 いわき信用組合の不正融資問題を調査する特別調査委員会は31日、福島県いわき市で記者会見し、信組が不正融資によってつくった資金のうち約10億円が、反社会的勢力に提供されたと認められると明らかにした。金融庁は同日、反社会的勢力に不正な融資や資金提供をしていたとして、関連法に基づく業務の一部停止と改善命令を出した。

 特別調査委は信組の江尻次郎元会長が2004年~16年の間、1990年代から信組と関係があり、反社会的勢力と認められる人物や情報誌関係者に対し、不正融資で捻出した資金計3.5億円を提供していたと認定。江尻氏は約13年間にわたって反社会的勢力に総額10億円前後を支払ったと説明しており、特別調査委は「説明は不合理なものではない」と指摘。ほかに使途先も見つからなかったことから、使途不明とされてきた8.5億~10億円の全てが反社会的勢力に渡ったと認定した。

 不正融資の手口は、預金者に無断で口座を偽造し架空融資を行う「無断借名融資」やペーパーカンパニーを使った迂回(うかい)融資のほか、債務者に水増しして融資し、水増し分を現金で受け取る「水増し融資」も行われていたと認定。3パターンの手法で不正融資額の合計額は279億8400万円に上り、このうち外部へ流出したのは25億5100万円で、うち9億4900万円が反社会的勢力に流れたとした。また、信組の役員らが不正融資で捻出された資金を個人的に着服横領した事実は確認できなかったとした。

 特別調査委は不正融資発覚後に就任した新経営陣が設置し、弁護士と公認会計士の3人で構成。6月30日から調査を始め、第三者委員会の調査で判明しなかった使途不明金について主に調べた。

 信組の金成茂理事長は特別調査委の調査について「全く分からなかった事実が次々と出てきた。旧経営陣と決別、反社会的勢力との断絶は必ず行っていきたい」とした上で、旧経営陣の刑事責任、民事責任を追及していく考えを示した。民事の損害賠償請求は年内にも提訴するという。

 金融庁は命令で、新規顧客への融資業務を11月17日から1カ月間停止するよう求めたほか、全ての役職員が一定期間通常の業務から離れて研修を受けることも要請した。

 問題の根深さ浮き彫りに

 【解説】特別調査委員会が31日公表した調査報告書は、いわき信用組合が反社会的勢力の脅しに屈して資金を払い続けていた実態を生々しく描いている。反社会的勢力とされた人物との関係が始まったのは1990年代。「時代の流れから取り残されるように、反社との関係を断ち切ることができないまま不当要求に対する支払いを継続した」。2000年代に大口融資先への不正融資のために無断借名融資という「最悪の禁じ手」(特別調査委)を使うようになってからは、反社への資金提供にもこの手法が使われ始めたと指摘。問題の根深さを浮き彫りにした。

 信組は今後、反社との関係を断ち切れるのか。特別調査委は、反社への関連が疑われる取引を見たら誰もが臆することなく外部に通報できるような、全役職員の意識改革が必要だと指摘する。

 巨額の不正融資や前時代的な反社との関係など次々と驚きの事実が明らかになり、信組に対する信用は完全に失墜した。一方で、信組が中小零細企業にとっての「最後の貸し手」として地域で役割を果たしてきたことも事実。ゼロから信用を構築することができるのか、市民の厳しい視線が注がれている。

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