【処理水の波紋】安全基準説明、地道に 中国の反応「一番の痛手」

 
「国内では買い控えや価格の下落といった典型的な風評の問題は起こっていない」と話す小山教授

 「正確には分析しなければ分からないが、国内では買い控えや価格の下落といった典型的な風評の問題は起こっていない」。福島大食農学類教授の小山良太(49)は、東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出後の現状を分析する。

 ただ、中国が日本の水産物輸入を全面的に停止するなど日中関係に関しては改善のめどが立っておらず「政府が責任を持って対話を重ねるしかない」と指摘する。

 小山は、処理水を処分した場合に社会に与える影響などを議論してきた政府の小委員会のメンバー。風評被害について小委員会は、消費者不安を背景とした大手企業や仲卸による水産物の買い控えなどを懸念したが、現状ではそういった動きはない。小山は「想定外だった原発事故とは違い、海洋放出の時期が示されていたことで、事前に対策することができたからではないか」と推察する。

 政府が海洋放出方針を決定したのは2021年4月。2年後の放出開始を見込む中、政府や東電は、放出後の水産物の検査体制を確立したことに加え、小売業界大手や流通業者などに向け、処理水に含まれる放射性物質トリチウムの科学的な安全性に関する理解促進を図ってきた。

 東電の体制整備も必要

 しかし、輸入停止を含めて中国が過剰に反応した。中国向けに輸出していた北海道などの水産物が大きな打撃を受け、日本国内の飲食店などには、中国からとみられる嫌がらせ電話も相次いだ。「中国側はフェイクニュースを含めて反応しており、一番の痛手。解決は難しいのではないか」と小山。政府による外交努力で処理水の科学的安全性を丁寧に説明するほか、第1原発に視察団を受け入れることを提案するなど、中国側にメッセージを発信し続けることが重要だとみる。当然、トラブルなく海洋放出を続けるための東電側の体制整備も必要だ。

 小山は今後、海洋放出に関する認知度を調査するため訪韓し、流通業者への聞き取りなどを予定する。韓国内では首相韓悳洙(ハンドクス)が国民に日本の海洋放出について理解を求める一方、野党が尹錫悦(ユンソンニョル)政権を批判するなど温度差がある。日本国内でも、魚にトリチウムが蓄積されるといった誤解が一部の国民の間で継続して認識されている。

 今後、数十年にわたって処理水の放出が続く中、「汚染水を浄化していることや魚にトリチウムが蓄積しないなど、安全基準を説明し続けるしかない」。小山は改めて、地道な情報発信の重要性を説いた。(文中敬称略)

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 こやま・りょうた 東京都出身。北海道大大学院農学研究科を経て2014年に福島大経済経営学類教授、19年食農学類教授。処理水の処分を巡る政府の小委員会で委員を務めた。専門は農業経済学。