互いに顔を知らないまま、アルバイト先の手書きの連絡ノートを介して気持ちを通わせていく男女と、その周りで起きる奇跡のような出来事をあたたかく描いた映画「大きな玉ねぎの下で」が7日、郡山市の郡山テアトルなど全国で公開される。モチーフになっているのはロックバンド「爆風スランプ」の80年代のヒット曲だ。主演の神尾楓珠(ふうじゅ)さんに見どころや作品に込めた思いなどを聞いた。
武道館、響き合う二つの恋
映画のタイトルになっている爆風スランプの「大きな玉ねぎの下で」は、ペンフレンドに東京・日本武道館でのコンサートのチケットを送り、自分の隣の席に相手が現れるのを待ち続ける気持ちを歌った切ないバラードだ。武道館の屋根の上の丸い飾りが詞の中で「玉ねぎ」と表現された。
今作は幅広い世代に知られているこの曲に基づいて作られ、主な舞台は現代の飲食店。神尾さんが演じる夜担当のアルバイト店員の丈流(たける)と、昼担当の美優(みゆ)(桜田ひよりさん)が業務連絡用ノートでやりとりを重ね、次第に恋心を募らせ、それぞれの素性を知らずに武道館で会う約束をする。劇中のラジオ番組で語られる30年前の文通相手と武道館で待ち合わせたエピソードが物語のもう一つの軸で、現在と過去の二つの恋物語が交錯していく。
神尾さんは映画のタイトルを知ったときのことを「曲は知っていたので、どんなストーリーなのかと、わくわくした」と振り返る。「映画と曲がリンクしているのが面白い。両方に象徴的に登場する武道館を改めて見たら、オーラを感じた」という。
演じた丈流は就職活動中の若者で「思うように就活が進まず、はじめは友人をばかにしたり、妬(ねた)んだりして強がっていた。でも、美優や家族と心を通わせる過程で、少しずつ本音を出せるようになっていく。心が救われ解放されていく変化を意識して演じました」。
丈流が連絡ノートに字を書いていく場面は見どころの一つ。神尾さん自身は普段の生活では手書きで伝える機会は少ないといい、「新鮮で緊張しました。長文を書くシーンは書き終えるまでの集中力を保つのが大変でした」とほっとした表情を見せる。美しい字を披露しているが「書道を習った経験はありません。母が字を書くのが上手で、幼い頃にまねして書いていたからかな」と笑う。
デジタルツールでのメッセージのやりとりが主流の現代で、手書きの文字に込められた思いが、見る人の心に残る。神尾さんは「今は手書きでのやりとりが少なくなってきているが、作品を通して僕と同世代の人には『手書きの新鮮さ』と良さが伝わったらうれしい。文通の楽しさを知っている年代の方は懐かしさを感じるのでは。幅広い世代の人に作品を楽しんでほしいです」と呼び掛けた。
福島旅行、いい思い出
子どもの頃に家族旅行で本県を訪れたことがあるという神尾さん。「(多分ハワイアンズだと思うのですが)大きいプールで遊んで楽しかったのを覚えています。お米がとてもおいしいので、ほかの名物も知りたいです」(高橋由佳)