長崎の原爆で被爆した三春町出身の音楽家故岡山直(ただし)さん(1902~86年)。町は岡山さんの足跡をたどり、平和について考えてもらおうと9日、同町のまほらで戦後80年平和祈念事業を行う。被爆体験をつづった岡山さんの手記の朗読や作曲した楽曲を歌い、戦後80年の節目に平和への願いを引き継いでいく。
岡山さんは福島師範学校(現福島大)を卒業後、1922年に三春小で音楽教師として教壇に立ち、師範学校の恩師の招きで長崎市の長崎師範学校(現長崎大)でも教師を務めた。戦後は県内に戻り、小中学校や高校、郡山女子大でも音楽を教えた。三春小や三春中、田村高の校歌をはじめ、県内や長崎県の学校の校歌を作曲したほか、合唱団の指導にも精力的に取り組み、音楽文化の振興に尽力した。
「空には原爆雲の厚い層が、黒びろうどの重たい幕となって低くたれこめ、下側だけが不気味な赤い色に染まっている。(中略)ありとあらゆるものが燃えていて、その火の中から、ひょろり、ひょろりと裸の人間が現れてくる。」。手記では原爆投下直後の光景を当事者でなければ描けない原爆の恐ろしさを記している。悲惨な戦争体験を経たからこそ、紡ぎ出されるメロディーの根底に平和を願う岡山さんの思いが強く込められている。
「平和への祈り~岡山先生と三春・長崎~」と題した祈念事業では、町の読み聞かせボランティア「たんぽぽ」、合唱のミハルコーラス、まほら合唱団が出演する。ミハルコーラスは終戦後間もなく田村高教諭になった岡山さんが創設した。メンバー最年長の宗像多門さん(93)は田村高時代に加入し、岡山さんの指導を受けた一人。本番では田村高校歌や「長崎の鐘」などを披露する予定で「歌を歌い続けることができたのは平和な時代になったおかげだと思う。岡山先生をしのび、思い出しながら歌いたい」と話す。
祈念事業は9日午後1時30分から。入場無料。