• X
  • facebook
  • line

【ふくしま子育て応援隊】みんな違うから面白い ディーン・フジオカさんが絵本翻訳

2025/11/17 11:30

初の翻訳絵本「ありさんシェフのしょうたいじょう」を手がけたディーン・フジオカさん。「親子一緒に、表紙から裏表紙までくまなく楽しんでほしいです」
翻訳作業に取り組むディーンさん
「ありさんシェフのしょうたいじょう」(ダリオ・ポモドーロ著、ロレンツォ・サンジョ絵、ディーン・フジオカ翻訳、講談社・1870円)
原作者のポモドーロさん(左)とミラノで交流し翻訳のヒントを探ったディーンさん(中央)
初の翻訳絵本を紹介するディーンさん(右)と大橋アナ

 自分と異なる考えや立場の人と一緒に暮らしていくために、大切なこととはどんなことでしょうか。国内外で活躍している俳優ディーン・フジオカさん(須賀川市出身)が、初めて翻訳を務めた絵本「ありさんシェフのしょうたいじょう」では、いろいろな動物のお客に楽しんでもらえるよう、席順を考えて大忙しのありさんの姿を通し、「違いがあることの豊かさ」や「思いやる気持ちの大切さ」が紹介されています。ディーンさんに、子育て応援隊ナビゲーターの大橋聡子福島中央テレビアナウンサーが、日本語版に込めた思いなどを聞きました。

 タイトルも変え、とことん遊んだ

 ―初の絵本翻訳を依頼され、どんな気持ちでしたか?
 「まさかと思いました。翻訳者としてお仕事をいただけるなんて、と。多様な文化圏、言語圏で仕事をしてきて、言葉を扱うことは一筋縄でいかないと思うことを経験してきたので、作品を別の言語に翻訳するのは責任重大だと思いました。でも講談社の方から『ディーンならできるよ!』と励まされて(笑)。自分でも絵本『ふぁむばむ』という作品を作った経験があり、絵本作りは意義があることだと感じていました。今回は日本語で作品の魅力を伝えるという関わり方で、原作にはないページにせりふを置いたり、タイトルまで変えてしまったりと、表紙から裏表紙まで、余すことなく自由に遊ばせていただきました」

 ―ディーンさんの感性が翻訳に生かされた絵本なのですね。
 「『見つける喜び』のようなものがあるといいなと思ったんです。庭に埋められたイースターエッグを「見つけた!」という喜びのようなものが、絵本の中にあったらいいなと思って、いろいろやらせていただきました」

 ミラノに行って原作者と直談判

 ―最初に原作を読んだ時の感想は?
 「これを日本語で面白く伝えるのは難儀だなと思いました。原作を直訳したら抜け落ちるものがたくさんあるだろうし、日本語で新しい物語を作り直すような作業になるなと感じたんです。原作者たちと話したら翻訳の扉が開くのでは、と考え、イタリア・ミラノへ行きました」

 ―どんな話をしたんですか?
 「原作の良い部分を自分なりに昇華して新しいものを作り出したいという気持ちを伝え、こういう部分をこう表現したら受け止めてもらえますか、と。コミュニケーションが始まった感じがしましたね。直接会って、おいしいものを食べ、会話をするということの大切さを改めて感じました。男の子はみんなボロネーゼ好きだという点で、共感できたのが大きかったです(笑)。でも好き嫌いが合うかというのは、結構大事だと思うんです。『俺も好きなんだよ』みたいな。そういう、絵本とは違う話題の中で『あ、こういう感性で生きてるんだ、この人』というのが分かったのは大事でした。こうしたやりとりがあったことで、日本語版の翻訳について信頼してもらえたのではないかと思っています。先方も何か感じるものがあったようで、後でディーン・フジオカを模したキャラクターをデザインしていただきました」

 ―翻訳作業はどのように進めたのですか。
 「まず自分で読み、意味を受け止めるところからスタートしました。英語の資料を参考に、日本語の表現をどうしようかと考えていきました。特に、一人称や二人称の選び方や、読んだ時に気持ちがいい母音と子音のバランスなどに気を配りました」

 ―ありさんシェフは、タイプの違うお客さまたちに楽しんでもらおうと頭を悩ませます。この作品のテーマの一つでもある、多様性を認め合うということについて、海外でも活動するディーンさんはどう感じましたか。
 「やっぱり、須賀川市生まれなので。『光の国』の多様性にはもう、地球ごときの多様性は及ばないですよね。須賀川では日常の会話の中で円谷プロの作品が出てきたり、通りにいろいろな像が立っているじゃないですか。あそこまでの多様性はこの地球にはないですね。須賀川で生まれて、物心ついた時には離れていましたが、でも毎年夏や冬には訪れていました。この人生は、円谷英二さんの世界観が当たり前にある場所で生まれ育ち、一番初めに空想の力に触れた、という経験が原点になっているんだなと思います。特撮アーカイブセンターで自分の子どもたちに展示を見せると、改めて、こういうことって人生に大きな影響を与えるんだなと感じさせられますね」

 ―ありさんシェフはどんな料理を作ったと思いますか。
 「これが、あまり重要ではないんですよね。本質はそこではなくて、誰を招くか、一皿なのかコース料理にするのか、料理を誰にどう楽しんでもらうのか、誰と分かち合うのか。そこがこの絵本で大切なのではないかと思って、原題のタイトルを日本語版で変えてしまったんですよ。暴挙! ミラノまで行って直談判です。『日本だけどうした? 空想の力を使い過ぎでは』という感じになってしまって(笑)。でも、イタリアの作品なので、自分はイタリア料理なのかなと思っています」

 ―ご自身は子どもの頃どのように絵本に親しみましたか。
 「特定の作品というよりも、いろいろな絵本を読んでもらいましたね。絵だけの本も見ていたと思います。そういうことを通して、親が子どもにご飯を食べさせるように、感性や言語が伝わっていくのではないかなと思います」

 ―ご出身は須賀川市ですが、福島県にはどんな思い出がありますか。
 「冬はスキー場で、ひたすらスキーざんまいでした。猫魔スキー場などによく行っていましたね。夏は川でザリガニ捕り」

 ―ワイルドですね!
 「ワイルドです。まあ、ザリガニ専門で捕っていたわけではないのですが、魚を釣ったりもしました。自然豊かな、子どもの時の思い出がたくさんあります」

 親子一緒に読んで発見してほしい

 ―福島県を生きる子どもたちや、子育て中の皆さんに向けて、メッセージを。
 「須賀川、福島、東北、日本、アジアがあって、地球。基本は全部変わらないと思います。自分の体ぐらいしか、自分とこの世をつなぐものなんてないわけですよね。だから健康第一、安全第一で、日々頑張っていただきたいです。強いて言えば、自分の想像を超えるような可能性というのが、生きてるとこの世にはあるということを知っておくといいかもしれないですね。全く自分が想像もできなかった展開というのがあり得るので、悲観する必要もないし、うまくいっても浮かれる必要もない。一つ一つ、一日一日生きていく中で、いろいろな出会いや発見のようなものを楽しめるといいのではないでしょうか。この絵本の翻訳では、原作に全くない楽しい遊びをさせてもらいました。親子が一緒になって、くまなく表紙から裏表紙まで見ながら発見する楽しみを体験してもらえたら。絵本を読む時間が、親子をつなぐ時間になったらいいなと思います」

 さらに!聞きました

 ―いろいろな人が暮らすこの世界で、みんなが幸せに暮らすために大切なことは?
 「衣食住を大切にするということでしょうか。多過ぎても駄目だし、足りないと死んでしまうし。奪い合ってもしょうがないし。『足るを知る』ということでしょうか」

 ―いろいろな動物が出てきますが、お気に入りは?
 「難しいなあ。どれも面白いんですよ。『違い』に着目したストーリーだと思うので。きょうは鳥の服を着ているので、ニワトリでしょうか」

 ―幅広い世代が楽しめそうな絵本です。
 「大人が見ても気付きを得られるのではないかと思います。世界情勢を模してるんじゃないかなと思うこともありますしね。いろいろな楽しみ方ができる、そんな絵本です」

          ◇

 【プロフィル】須賀川市出身。高校卒業後、米留学を経て2004年に香港でモデル活動を開始。15年のNHK連続テレビ小説「あさが来た」、現在放送中のドラマ「ちょっとだけエスパー」(KFB)など出演作多数。シンガー・ソングライターとして音楽活動も行っている。45歳。

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line