30年ほど前の学生時代、国立競技場や神宮球場がある東京・明治神宮外苑内の日本料理店で働いていた。周囲には大企業や病院、寺院などが多く、接待や宴会、法要で利用する人向けの会席料理などが人気だった
▼「神宮の森」とも呼ばれる周辺はイチョウなどの樹木が立ち並び、都会の真ん中とは思えない自然空間。店で修業中の若い調理人は、飾りなどに使う枝葉集めに駆り出され、秋になるとギンナン拾いが日課の一つ。強烈な臭いに耐えながら下処理を行い、揚げ物などに添えられた
▼神宮外苑は5年前に新国立競技場が誕生し、再開発が計画されている。対象地区内にある約1900本の高木の3割超を伐採する計画に批判が集まるなか、再開発事業者が伐採する樹木を1割程度減らす計画の見直し案を示した
▼シンボルのイチョウ並木については保全対策を強化するほか、新たに植樹する木も増やす。老木が多く、保存の難しい樹木がある。ただ本数を減らしたとはいえ、600本以上を一気に伐採することには違和感を覚える
▼再開発では新球場や超高層ビルを建設予定だ。環境保全が最優先の時代。都会の喧騒(けんそう)を忘れられる小さな森と、木々がもたらす滋味は残してほしい。