コロナ禍のドイツで当時のメルケル首相の行った演説が共感を呼んだ。生活の制限を強いるに当たり、必要なのは政治的決断を透明にして説明し根拠を示すこと―と語った上で、痛みを分かち合い結束するよう訴えた。リーダーの言葉は国の行く末を左右する
▼正義の名の下に武力で相手をねじ伏せようと、戦火を広げている国々のリーダーの語り口は力強い。ただどうも空疎に響く。非人道的な行為を正当化しようと口をついて出る言葉に、人々を共感させる力が宿るはずもない
▼数学者の藤原正彦さんは、優れた政治家に求められる資質として、何より言葉の大切さを強調する。「人を動かすには説得力のある論理的な言葉、そして胸を打ち情に訴える言葉が必要だ」(「日本人の真価」文春新書)
▼日本の新しいリーダーとなる自民党の総裁に、石破茂元幹事長が選出された。「国民を信じ、勇気と真心を持って真実を語る」。新総裁としてこう述べた
▼課題を積み残したままの政治とカネの問題や、物価高が続く経済の立て直し、相次ぐ領空侵犯など内憂外患の状況だ。党をどう変え、日本をどう導いていくのか。まずは論理的で、そして共感できる言葉で真実を語ってもらいたい。