2日の追加発表で世界選手権東京大会の代表に選出された松本奈菜子(28)=東邦銀行、井戸アビゲイル風果(24)=同。ともに故郷を離れ、福島県に拠点を移して誓ったのは「世界に通用する走りを目指す」との覚悟だ。2人は不断の努力と自信に加え、県民の声援を背に世界のスプリンターに挑む。
井戸「記録塗り替える」
女子200メートルの日本記録保持者、井戸が世界最高峰の戦いに臨む。「記録を塗り替え続けることで世界と戦える自信につながっている」。今季、記録更新の快進撃を続ける新女王は慢心なく出走の日を待ちわびる。
「日本のトップに立ちたい」。昨春、本県に来た時に立てた誓いは今も揺るぎない。胸に秘める「世界への挑戦」という確固たる軸が走りの原動力だ。
昨年、特に注力したのが正しい姿勢での足運びだ。歩行から体に染み込ませ続け、築いた走りの土台が花開いた。7月の日本選手権で2冠を達成し、「これまでは前進する力が分散してしまったが、基礎を徹底することで推進力を生み出せるようになった」と確かな手応えを感じていた。
勝負を離れれば、陸上好きな一面も顔をのぞかせる。種目の中で最も好きな200メートルの魅力を「コーナーから最後の直線に入っていく感覚が好き」と頬を緩ませる。日本で今最も勢いのあるスプリンターとして注目を集める。だが、冷静に自身の走りを高める姿勢に変わりない。「自国開催の舞台で個人種目に臨める。最高のパフォーマンスを発揮したい」。勝負を告げる号砲は間もなく響く。
松本、信じた個の力証明
「吉田真希子監督と『個人種目で世界と戦う』と目標を掲げていた。目標を達成できてとてもうれしい」。松本は初となる女子400メートルの出場を見据え、静かに闘志を燃やす。
「何度も振り返るたびに悔しい気持ちになる」。そう打ち明けるのは7月の日本選手権女子400メートル決勝だ。大会2週間前に負った右脚内転筋の痛みから直前まで練習を自粛せざるを得ず、4位に終わった。
だが、気持ちは切らさなかった。日本選手権終了後も国内外の大会に遠征し、世界選手権出場に必要な世界ランキングの向上を目指した。「最後まで自分を信じて走りきりたい」との思いで駆け続けた。
再びつかんだ世界の舞台。前回は混合1600メートルリレーで予選落ちを経験した。だが「世界で通用する選手になることが幼い頃からの夢」と挑む姿勢は変わらない。400メートルの目標に「一つでも多くラウンドを重ねていく」と前向きだ。
陸上に打ち込めるのも支えてくれる仲間あってこそだ。「スタートラインに立つ時は1人だが、そこに至るまでに多くの人の力を借りている」と松本。混合1600メートルリレーと共に両種目の日本記録更新を狙う。
ハードルコーチ吉田監督が就任
代表選手団の短距離ハードルコーチに、東邦銀行陸上競技部の吉田真希子監督(49)日本陸連強化委員会オリンピック強化スタッフ=が就任した。「松本、井戸ともに、初めて個人種目での出場がかなったことを大変うれしく思う。世界の舞台で力を発揮できるように頑張る」と話した。
福島陸協会長「臆さずに挑んで」
福島陸協の根本寿実(としみ)会長(63)は「選手として伸び盛りの2人が世界を舞台に、どんな走りを見せてくれるか注目したい」と語った。「2人の走りが陸上に打ち込む本県の中高生の刺激にもなる。これまでの経験を糧に臆さず挑んでほしい」と期待した。