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【新まち食堂物語】要のソース、全て手作り 洋食レストラン銀の糸・いわき市

2025/09/28 09:00

  • 動画付き
調理場で腕を振るう隆さん(手前)と雅人さん。地元で愛される店を目指す
看板メニューのハンバーグ(手前)などが市民らの胃袋を満たしてきた

 いわき市のJRいわき駅から少し離れた閑静な場所にある「洋食レストラン 銀の糸」。オーナーの富樫隆さん(75)、妻千佳子さん(70)、長男でマネジャーの雅人さん(47)の3人が切り盛りする創業38年の店は、看板メニューのハンバーグなどで市民らの胃袋を満たしてきた。雅人さんは「いろいろあったけれど、笑って楽しくやっていればなんとかなると思ってやってきた」と振り返る。

 思い込めた店名

 かつて隆さんは東京プリンスホテル(東京都)のメインレストランシェフ、千佳子さんはウエートレスだった。2人は結婚後、隆さんの地元のいわき市に住み始めた。隆さんは約10年間、別の飲食店で働いて独立し、同市平倉前で店の前身となる「街角レストラン 銀の糸」を始めた。店名の「銀」は「常に向上心を持つ」、「糸」は「お客さんとの絆をつなぐ」という思いを込めた。

 雅人さんは高校まで皿洗いなどの手伝いをしていて、よく店に顔を出していた。「当時にしてはハイカラなメニューばかりだったなと思う」。ハンバーグをはじめ、シチューやグラタン、ポタージュなど高級ホテル仕込みの料理は人気を集め、約20席の小さな店は評判となった。

 転機は東日本大震災だった。当時飲食関係の仕事をしていた雅人さんは正社員ではなかったため、店を解雇されたという。職を失うと、震災の約2カ月後に再開した銀の糸を手伝うようになった。

 「継ぐなら新しい店舗にしようか」。隆さんのひと言で、震災で全壊し、更地となっていた隆さんの実家があった現在の場所に新店舗を建設。2017年6月に移転し、現在の店名に変更した。元々は店を継ぐ気はなかったという雅人さん。「震災がなければ、ここにはいなかったと思う。変なご縁だね」としみじみ語る。

 移転後は本格的に2人で調理場に立つようになり、ノウハウは隆さんに教わった。「昔の父は厳しかった。ハンバーグの成形一つとっても、いろいろなことを細かく言われた」と懐古する雅人さん。「しょっちゅうぶつかっていたね」と笑う。

 食材は地元から

 そんな2人が丹精する料理の要のソースは、創業時から全て手作り。ハンバーグやシチューなどの自家製デミソースは余計な油を落とした鶏ガラや牛すじのほか、香味野菜などを大きな鍋で1日程度煮込み、その後、料理ごとに調理工程を変えて仕上げる。グラタンソースやサラダのドレッシングなども一から作る自慢の品。食材は地元の青果店や精肉店から仕入れることも、こだわりの一つだ。

 変わらぬ味を求めて、足しげく通う常連客も少なくない。雅人さんは「同じメニューしか食べないお客さんもいるし、3代で来てくれるお客さんもいる」と胸を張る。新型コロナウイルスや物価高など次々と試練が訪れるが、店を続けているのは強い地元愛があるから。「故郷ラブなんです。店を通して、この街がにぎやかになってくれればいいですね」。地元に愛され続ける店を目指して、今日も腕を振るう。

お店データ

■住所 いわき市平字掻槌小路24の5

■電話 0246・21・5460

■営業時間 午前11時~午後2時、午後5時半~同7時

■定休日 不定休

■主なメニュー
 ▽銀の糸セット=1870円
 ▽ハンバーグセット(120グラム)=1320円
 ▽同(220グラム)=1760円
 ▽同(350グラム)=2200円
 ▽海老グラタン=1760円

 人気者のフクロウ

 レジ横のフクロウの彫刻は、雅人さんの弟がオークションで落札したもの。フクロウは「福が来る」「商売繁盛」「不苦労」など縁起が良いとされる。「『目がかわいい』って人気者。みんな頭をなでている」と千佳子さん。看板犬ならぬ看板フクロウが来店客を癒やしている。

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