虚偽情報が社会にさまざまな弊害を及ぼす状況だからこそ、読者に信頼できる情報を届けるための環境を守っていきたい。
共同通信、毎日新聞、産経新聞の各社が、生成人工知能(AI)検索サービスを展開する米新興企業「パープレキシティ」に対し、配信記事を無断で利用することで著作権を侵害しているとして、即時利用停止や対価の支払いを求める抗議書を送付した。福島民友新聞社など共同通信加盟の48社も連名で抗議声明を発表した。
抗議書によると、パ社は配信記事を無断で複製・利用しており、ニュースサイトの記事に約1年間で数十万回のアクセスを繰り返しているのを確認したとしている。記事は生成AIの学習に用いられ、検索サービスの回答に反映されているとみられる。
新聞などの記事は、記者が取材を通じ、事実確認をした上で掲載される。その過程では多くの時間や人件費を含めた資源が費やされている。生成AIの記事の無断利用は、報道機関の投じた労力、資源へのただ乗りだ。
情報を得ようとする人が、記事を学習した生成AIによる回答を得ることで満足してしまえば、報道機関の発行する新聞を手にしたり、ウェブサイトにアクセスしたりする機会が減る。報道機関にとっては、収入減により取材体制の維持などにも直結する問題だ。
共同通信は、パ社の生成AIが回答の参照元として共同通信の記事を表示しながら、記事の内容と異なる虚偽情報を回答として示しているとも主張している。報道機関の記事を根拠として虚偽情報を示すのはその機関のみならず、報道そのものに対する読者などの信頼を損なうことにつながる。
パ社は抗議書を受け、報道機関などからの照会に対し、事実関係を確認した上で誠意をもって全面的に回答するとしている。早急な回答と適正な対応を求めたい。
パ社を巡っては、読売新聞の東京、大阪、西部の3本社なども抗議書と同様の趣旨で訴訟を起こしている。しかし、記事へのただ乗りはパ社に限ったことではないだろう。報道機関と生成AI事業者が、適正利用に向けた国際的なルール作りを進める必要がある。
著作権法は2018年の改正により、生成AIに著作物の無断学習を原則認めている。改正からの7年で生成AIが急速に進化し、無断学習が際限なく行われることで、ニュース記事に限らずさまざまな著作物の権利がないがしろにされている。現状を踏まえた法制度などの見直しが急務だ。
