【たぬきケーキ(下)】全て手作り、和菓子の技?

 
(1)クリームでできた頭の部分が並ぶ。すでに耳が付いている(2)頭の部分に満遍なくチョコレートをかける(3)チョコが固まる前に、目の部分に指でくぼみを付ける(4)くぼみの中にクリームを絞り(奥)、チョコで作った目をのせる(右)。完成したタヌキたちは、上目遣いで「親」を見ているようだ

 たぬきケーキの取材を進めていると、どの店の人も「作るのに手間が掛かる」と口をそろえる。では、どんな工程で作られるのか、福島市にあるニューキムラヤの工場へお邪魔した。

目は指でくぼみ

 工場に入ると、まだ白い頭の部分から、目を入れた完成品まで、さまざまな工程のタヌキたちが並んでいる。

 作り方を簡単に記すと、まず、クリームでできた頭部に一つずつチョコレートをかけ、スポンジ生地でできた胴体部分に素早くのせる。次に、チョコレートが固まる前に、タヌキの目になる部分を指でくぼませる。ここがたぬきケーキの要となる部分で、この工程でタヌキの顔が決まる。早さと丁寧さが求められる難しい作業だ。そこへクリームとチョコで表情を仕上げて完成する。全ての工程を1個ずつ手作業で行い、高い技術が必要な作業もあり、その大変さを知ることができた。

研究家の意見は

 しかし、なぜタヌキ形で、どうやって各地に広まったのだろうか。ブログ「たぬきケーキのあるとこめぐり」や「全国たぬきケーキ生息マップ」を運営する、たぬきケーキ研究家の松本よしふみさんによると、ほぼ全国に分布するという。松本さんにその「生態」を聞いた。

 ―たぬきケーキの発祥は?
 1960年代初めごろ、製菓材料の会社が各地で勉強会を開き、たぬきケーキの作り方などを紹介していた。当時は、ほかにもイヌやハリネズミ、パンダなどのケーキもあった。

 ―なぜタヌキが残ったのか?
 「チョコレートとタヌキの色の親和性が高いからでは? あと、憶測ですが、最初にたぬきケーキが広まった当時、日本の菓子店は和菓子の職人がほとんどだった。彼らにとって、たぬきケーキの目から鼻の部分を指でつまんで作る技法は、和菓子の『練り切り』を作る所作に通じるのではと思う。その点でも、たぬきケーキは当時の職人たちにもなじみやすかったのでしょう」

 ―「絶滅寸前」の理由の一つに、ケーキの材料の中心がバタークリームから生クリームに変わったことが挙げられますが、ほかに考えられる理由は。
 「とどめを刺したのは、90年代初めごろ、ティラミスやナタデココなど、毎年のように特定の洋菓子のブームが作られたことだと思う。このタイミングで、昔ながらのケーキをやめて流行の商品を中心に作る店が増えたようだ。さらに、コンビニでお菓子やケーキを手軽に買えるようになった影響も大きく、菓子店自体が減ってしまった」

 ―たぬきケーキの魅力とは。
 「地域のお店にたぬきケーキがあることで生まれる物語がある。例えば、ある地域の子どもたちにとってたぬきケーキは、病院に行った帰りに買ってもらえるご褒美だった、とか。そんなエピソードが面白くて研究を続けている」

 確かにたぬきケーキには、語りたくなる不思議な魅力がある。会話が生まれる、物語が生まれるおやつとして、「たぬきケーキがある風景」がいつまでも続いてほしい。(佐藤香)